研究実績の概要 |
金属表面におけるNO分子の解離過程は、重要な触媒反応素過程の一つである。しかしながら、NO分子の反応挙動は金属の種類により異なることが実験的に知られており、貴金属の減量・代替を目指した新規な触媒開発のためには、構成元素と電子状態の関連や電子状態に基づく反応過程の理解が不可欠である。 本年度は、昨年度に4d金属(Rh, Ru, Pd, Ag)で得られたNO分子の反応挙動に関する知見を、3d金属(Fe, Co, Ni, Cu)へ拡張した。3d金属におけるNO分子の反応挙動は、Fe, Co, NiではNO解離吸着、CuではNO二量化が進行することが報告されており、同じ族でありながら3d金属と4d金属では反応性が異なっている。特に、同じ10族であるNi(解離吸着)とPd(分子吸着)で異なる反応性を示すことは、豊富に存在するNi利用の点から興味深い。 M55金属クラスターを用いた反応機構の検討から、Fe, Co, NiではNO解離吸着が、CuではNO二量化が進行することが示され、実験事実と一致する結果が得られた。状態密度および分子軌道解析のから、金属のd band-topのエネルギー準位がNO解離吸着の反応性に大きく関係しており、よりエネルギー準位の高い3d金属が4d金属に比べて、速度論的および熱力学的にNO解離に対して有利であることが示された。特にPdに比べてNiのd軌道準位が高いことが、異なる反応性の要因となっている。エネルギー準位の高いs band-topを有するCuがNO二量化に有利であることは我々の先行研究で報告済みであるため、これにより本研究で新規触媒の候補としたすべての金属について、NO分子反応挙動の電子論的な理解を与えることができた。 以上の結果は、新規な触媒設計、特に複合金属を利用した触媒の設計において、反応性と反応メカニズムを予測する重要な指針となることが期待される。
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