研究課題
置換基のついていない桂皮酸メチル(MC)について、低温マトリックス赤外分光実験と超音速レーザー分光実験を行なった。その結果、MCも紫外光を照射することでtrans体からcis体に異性化することを確認した。超音速レーザー分光実験では、桂皮酸誘導体で初めてS1(nπ*)状態を観測し帰属することに成功した。また、S1(nπ*)状態のわずか660 cm-1高エネルギー側にS2(ππ*)状態を観測した。各状態の寿命を測定した結果、S1(nπ*)状態は、ゼロ点準位での寿命が10ナノ秒であるが、エネルギーに上がるに従って急激に寿命が短くなり、ゼロ点付近ですでにT1(ππ*)状態に項間交差で無輻射緩和していることが分かった。さらに、S2(ππ*)状態はゼロ点準位での寿命がすでに10ピコ秒以下になっており、S2(ππ*)→ S1(nπ*)→T1(ππ*)の無輻射過程が進行していることが明らかになった。T1(ππ*)の生成は、ナノ秒レーザーを用いたUV-DUV pump-probe法で確認できた。次に、MCとメタノールとの水素結合錯体を形成し、水素結合効果を調べた。その結果、MCのカルボニル基にメタノールが水素結合するとS1(nπ*)状態は70cm-1 red-shiftして寿命はあまり変化しないが、S2(ππ*)状態が230cm-1 red-shift して寿命が170ピコ秒と17倍以上も長くなることがわかった。つまり、MCは水素結合すると蛍光特性が上がることがわかった。実際に、シクロヘキサン溶液とメタノール溶液とでMCの蛍光強度を比べると、メタノール溶液の方が蛍光強度が約2倍強くなることがわかった。これらの結果は、ヨーロッパの著名な国際雑誌Phys. Chem. Chem. Phys.にアクセプトされ、現在web siteに掲載されている。また、第35回化学反応討論会でも発表した。
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Phys. Chem. Chem. Phys.
巻: 印刷中 ページ: 1-9
10.1039/c9cp02914a
巻: 21 ページ: 17082-17086
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J. Phys. Chem. A
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