研究課題/領域番号 |
19K05388
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
山田 泰教 佐賀大学, 理工学部, 教授 (20359946)
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研究分担者 |
鯉川 雅之 佐賀大学, 理工学部, 教授 (90221952)
米田 宏 佐賀大学, 理工学部, 助教 (50622239)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 擬似エナンチオマー / ホモキラル相互作用 / ヘテロキラル相互作用 / 立体特異的集積化 / 強発光性金属錯体 / 多環式芳香族化合物 |
研究実績の概要 |
本研究では,1)異なる多環式芳香族化合物のヘテロキラル相互作用に基づく集積化,2) 強発光性金属錯体のヘテロキラル相互作用に基づく混晶化,3)金属酸化物ナノ粒子に担持した光学活性分子のヘテロキラル相互作用の応用,という三つの課題を設定し,擬似エナンチオマー間のヘテロ相互作用を利用した新奇キラル構造の構築と共に,特異な機能の解明と応用を目指している。前年度までの成果を踏まえ,本年度は,1)の課題に関して,環状構造と共にホルミル基を有する有機化合物に対して,アミノ酸をはじめとするアミノ基を有する光学活性化合物を反応させることにより,比較的結晶性の高いキラルな多環式芳香族化合物を新たに合成することに成功した。2)の課題に関しては,光学活性な2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチルを配位したキラルな銅一価や銀一価錯体の系を対象とし,エナンチオマー間,擬似エナンチオマー間でのヘテロキラル相互作用に基づく結晶化について前年度よりも詳細に検討した。得られた結晶について,CDおよび発光スペクトル,発光量子収率,発光寿命測定等の実験手法により分光学的性質を比較した。光学活性錯体に関しては,発光性励起状態に関する知見を得る目的で,前年度とは異なるパラメータを用いたTD-TDF計算により電子遷移の性格や電子構造を詳細に検討した。その結果,例えば,キラル結晶とラセミ結晶では,発光特性が著しく異なることを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記1)の課題については,環状構造と共にホルミル基を有する有機化合物に対して,アミノ基を有する光学活性化合物を反応させることにより,複数のキラルな多環式芳香族化合物を合成することに成功しており,単結晶の育成に適する化合物群の合成にも着手している。今のところX線構造解析に至っていないが,比較的結晶性の高い化合物を合成することにも成功している。2)の課題に関しては,キラルな結晶,ラセミ結晶,擬似ラセミ結晶の結晶化に成功している。ヘテロキラル相互作用の詳細を充分に把握できていない部分もあるが,単結晶X線構造解析の実施に至ったものも少なくない。また,当初対象としていなかった螺旋型錯体や希土類元素を含む異種多核錯体,分子内積層型複核錯体など,擬似エナンチオマー間のヘテロ相互作用を利用した新奇キラル構造の構築に適した新たな系の開拓にも成功している。さらに,キラルな銅一価や銀一価錯体の系については,想定以上の成果を得ている。一方,感染症流行により3)の課題に充分な時間を確保できていない部分も少なからずある。また,感染症拡大状況を考慮して予定していた学会への参加を見送った例も少なくないため,既に得られている成果を発表する機会が充分にあったとは言い切れない。このように全体として進展している部分は多いものの,感染症流行を原因とする上記の状況を総合的に勘案して,本研究課題はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度,2020年度および2021年度の成果を踏まえ,1)の課題に関しては,既に得られている化合物を用いて単結晶育成条件を確立する共に,新しいタイプの光学活性多環式芳香族化合物の合成やヘテロキラル相互作用に基づく積層化についても引き続き追究する。2)の課題では,単結晶X線構造解析に至っていない系について重点的に取り組む。また,螺旋型錯体や希土類元素を含む異種多核錯体,分子内積層型複核錯体についても,ヘテロキラル相互作用に基づく混晶化を目指す。さらに,キラルな銅一価や銀一価錯体の系については,引き続き単結晶X線構造解析,固体状態の円偏光スペクトル,発光量子収率や発光寿命,DFT計算等により,構造や物性の詳細を実験と理論の両面から明らかにする。3)の課題に関しては,金属酸化物ナノ粒子への担持に有効な光学活性分子を設計・合成指針を見直し,金属酸化物に対する吸着能評価を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も既に所有していた光学活性化合物や金属塩を中心に使用することで新たな多環式芳香族化合物や発光性金属錯体などを合成することに成功し,興味深い成果を得ることができたため,当初予定した高価な光学活性化合物や金属塩の一部は購入に至らなかった。また,新型コロナウィルス感染症拡大により予定していた学会がオンライン開催となった他,参加を見送った学会も少なくなかったため旅費の使用もなかった。未使用分については,光学活性化合物および金属塩の購入,学会参加旅費等に充て,研究計画をスムーズに進める予定である。
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