研究課題/領域番号 |
19K05389
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研究機関 | 前橋工科大学 |
研究代表者 |
優 乙石 前橋工科大学, 工学部, 准教授 (90402544)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ATP / 蛋白質間相互作用 / 分子動力学 / 分子混雑 / 細胞環境 |
研究実績の概要 |
細胞内は生体高分子に加え、膨大な数の代謝物(メタボライト)が共存している。中でもATPなどのヌクレオチド三リン酸が分子量の観点から大部分を占めている。近年、ATPが様々な蛋白質に非特異的に結合し、凝集や液液相分離の形成を制御している可能性が示された(A. Patel and L. Malinovska, Science, 753 (2017))。これは蛋白質水溶液の巨視的な観測によって示されているが、ATPが蛋白質のいかなる部位に作用し、どの程度蛋白質間相互作用を改変しうるのかといった、分子レベルの作用機構については不明な点が多い。本研究は、ATPやその他のヌクレオチド三リン酸を中心とした細胞内メタボライトやイオンの非特異的相互作用が蛋白質動態に及ぼす影響を、全原子モデルを用いた分子動力学(Molecular Dynamics: MD)法による細胞環境シミュレーションによって微視的に解明する。本年度はは主に①ATP力場パラメータの改変がATPの溶解性に与える効果、②細胞質内のヌクレオチド三リン酸やイオンの相互作用について、調査を進めた。それぞれの成果については後述する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題①については去年度実施したATP水溶液のMDシミュレーションによって、既存の力場関数を用いた場合、ATP同士の過剰な凝集が発生し、大きなATP多量体を形成してしまうことが判明している。そこで本年度はATP間の非結合相互作用を改変する事で、どの程度ATPの溶解性が変化するかを調査した。これにより溶解性の大きく向上したATP力場パラメータを見出す事が出来た。②については細胞質の大規模MD計算により得られたトラジェクトリ(座標データ)を用いてATPを含むヌクレオチド三リン酸の蛋白質表面上のダイナミクスを解析し、各種イオンの挙動と比較した。また、ヌクレオチド三リン酸やイオンの結合により、RNAや蛋白質間の静電相互作用がどのように変化しうるかについても調査している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果によって、ATPの力場パラメータの精密化が可能になった。今後は実験データと照らし合わせ、最適な力場パラメータを決定するとともに、修正後のパラメータを用いてATPと蛋白質を含めた多成分系のMDシミュレーションを実施する。これにより蛋白質の立体構造安定性に及ぼすATP添加の影響を精査する。並行して、FUS(Fused in sarcoma:RNA結合蛋白質)のように液液相分離構造や凝集体を形成する蛋白質を含む分子混雑シミュレーションを開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、海外の国際学会や各種国内シンポジウムの殆どがオンライン開催となり、旅費の支出がなくなった。またこれに加え、昨年度購入予定だった計算機についても演算装置の発売スケジュールやサーバルームの環境整備の関係上、次年度に購入するほうが効果的な使用計画であると判断したため。
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