研究課題/領域番号 |
19K05391
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
河野 淳也 学習院大学, 理学部, 教授 (90557753)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 液滴衝突 / 共振増強 / 高次誘導ラマン散乱 |
研究実績の概要 |
本研究は,溶液混合反応の初期過程を明らかにすることを目的とする。そのため,液滴衝突反応研究に高次誘導ラマン散乱光観測を取り入れ,精密化する。具体的には,(1)衝突液滴界面における高次誘導ラマン散乱光の時間プロファイルを観測する装置を開発し,(2)高次誘導ラマン散乱の増強機構を解明する。その結果を踏まえ,(3)高次誘導ラマン散乱光をプローブとすることにより溶液状態と反応進行度を同時観測する。本研究により,液滴衝突によって誘起される反応の全貌を,衝突界面反応を含む初期過程から定量的に明らかにする。2019年度は,以下の研究成果を得た。 (1)高次誘導ラマン散乱波形観測装置の開発:1 GHz以上の広帯域をもつオシロスコープMSOX3102Aを導入し,高次誘導ラマン散乱のバンドごとの時間プロファイルを測定した。ラマン散乱光は,原理的に励起光と同じ時間プロファイルをもつ。したがって,高次誘導ラマン散乱光の時間プロファイルは,液滴内部での光の伝播をそのまま示している。多くの高次ラマン散乱光を含む光から,分光器を通してひとつのラマンバンドを切り出した。この光を光電子増倍管などの高速光検出器に導入し,その時間波形を観測した。信号は,レーザーに対して数10 nsの遅延時間をもち,数10 ns程度の減衰定数をもつ波形となった。 (2)高次誘導ラマン散乱光生成機構の解明:開発した装置を用いて,四塩化炭素の単一液滴,衝突液滴から生じる高次誘導ラマン散乱光の時間波形を観測した。ラマンバンドごとに遅延時間,減衰時間を観測し,ラマン散乱の次数,振動モードとの関連を求めた。単一液滴では,高次の光ほど発生時間が遅くなる結果が得らた。これは,液滴内の光伝播過程で誘導ラマン散乱光が増強していくという従来の発生機構から説明できた。一方,衝突液滴では高次光ほどラマン散乱光発生時間が短くなる傾向があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
装置開発に成功し,バンドごとのラマン散乱光発生時間が自動的に測定できるようになった。現在のところ液滴位置のゆらぎによる不確かさが存在するが,スペクトル同時測定による装置改良によって克服できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)衝突液滴の高次誘導ラマン散乱の精密観測:本年度の成果では,衝突液滴では高次光ほどラマン散乱光発生時間が短くなる傾向があった。これは,衝突液滴のゆらぎのため,高次光発生効率のいいショットでラマン散乱光発生時間が短くなることに由来する可能性がある。この場合,本来の次数依存性が測定できていないことになるので,スペクトルの同時測定などの改良を加えて確認する。 (2)高次誘導ラマン散乱光生成機構の解明:開発した装置を用いて,ベンゼンの単一液滴,衝突液滴から生じる高次誘導ラマン散乱光の時間波形を観測する。ベンゼンを試料として用いた場合,高次誘導ラマン散乱光として低波数ラマンバンドが観測されることがわかっている。このバンドに注目してラマン散乱光の発生時間解析を行うことにより,液体全体のダイナミクスを解明する。 (3)高次誘導ラマン散乱光を活用した液滴衝突反応の観測:2液滴の衝突反応を,高次誘導ラマン散乱光をプローブとして観測する。具体的な反応系として,ベンゼンなどの低振動数ラマンバンドを示す溶媒を用い,分子間振動モードの変化と反応物,生成物の同定を同時に行い,溶液状態と反応進行度の関連を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として,ソフトウェア開発に若干時間がかかったこと,学会参加をキャンセルしたことなどがあげられる。今年度予算と合わせて,消耗品購入・学会参加費・論文厚生費などに充てる。
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