本研究は,溶液混合反応の初期過程を明らかにすることを目的とする。そのため,液滴衝突反応研究に高次誘導ラマン散乱光観測を取り入れ,精密化する。具体的には,(1)衝突液滴界面における高次誘導ラマン散乱光の時間プロファイルを観測する装置を開発し,(2)高次誘導ラマン散乱の増強機構を解明する。その結果を踏まえ,(3)高次誘導ラマン散乱光をプローブとすることにより溶液状態と反応進行度を同時観測する。本研究により,液滴衝突によって誘起される反応の全貌を,衝突界面反応を含む初期過程から定量的に明らかにする。2021年度は,以下の研究成果を得た。 (1)ラマン散乱光のスペクトル・時間波形同時観測装置の開発:液滴の位置には,測定回ごとに若干の位置のずれがあり,それがスペクトルと時間波形の違いとなって表れる。具体的には,レーザーが液滴内に効率よくカップリングする場合には次数の大きな高次誘導ラマン散乱が生じ,時間遅延が小さくなる傾向がある。この現象を定量的に解析するため,高次誘導ラマン散乱光のスペクトルと時間波形を同時測定する装置を開発した。液滴から生じるラマン散乱光をハーフミラーによって2つに分け,それぞれを多波長同時測定分光器と昨年開発した時間波形測定装置へ導入し,レーザーショットごとに同時にPCへ取り込んだ。 (2)蛍光生成機構の解明:開発した装置の性能を確かめるために,高強度で観測することのできる蛍光を観測した。ローダミン6Gの水溶液を液滴資料として用い,生じる蛍光のスペクトルと時間波形の同時測定を実現した。蛍光も時間遅延を持って生成すること,蛍光波長によってその時間遅延が異なることが明らかとなり,蛍光発生機構について増幅自然放出とレーザー発振の両方の機構が働いていることが示唆された。
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