研究実績の概要 |
本研究は、イオン液体が、なぜ塩として異常に低い融点を持つのかを明らかにすべく、特に、イオンが様々な配座を有することで生じる配座エントロピーの観点から明らかにすることを目的とした。本研究の成果は大きく3点ある。 1.イオン液体の低融点にはこれまで分子間相互作用(エンタルピー)の観点からの議論が中心だったが、典型的な無機塩とイオン液体の熱力学量を比較することで、エンタルピー的な寄与よりもむしろエントロピー的な寄与の方が、低融点に支配的であることを明らかにした(Chem. Sci. 2022, 13, 7560)。 2.イオン液体の大きな融解エントロピーの分子論的な起源を明らかにするため、分子動力学計算を使って、典型的なイオン液体2種類と代表的な無機塩であるNaClの融解エントロピー分割を、2PT法と熱力学的積分法を組み合わせることで行った。その結果、これまでほとんど注目のされてこなかった配置エントロピーが、最も大きな寄与を持つことが明らかになった。配座エントロピーは、その次に大きな寄与を持ち、動的な寄与(並進、回転、振動)は、最も小さな寄与であった(Chem. Sci. 2022, 13, 7560)。 3.エントロピーの寄与の中で、最も評価のしやすい、かつ、本研究の主題でもある、配座エントロピーの見積もりを行った。まず、量子化学計算を用いて、真空中におけるイミダゾリウムカチオンの側鎖のアルキル鎖に注目した。従来は、ブチル基までしか報告がなかったが、本研究では、分散力も考慮した計算方法で、ヘキシル基までの配座を調べ、その配座エントロピーを算出した(Bull. Chem. Soc. Jpn. 2020, 93, 720, selected paper)。また、液体状態での配座エントロピーも、分子動力学法、及び、NMR分光を用いて見積もった(in preparation)。
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