研究課題/領域番号 |
19K05394
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研究機関 | 姫路獨協大学 |
研究代表者 |
岡村 恵美子 姫路獨協大学, 薬学部, 教授 (00160705)
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研究分担者 |
安岐 健三 姫路獨協大学, 薬学部, 特任助教 (50714945)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超精密計測 / 生物物理 / リアルタイム解析 / NMR / アミロイド形成 |
研究実績の概要 |
本年度は、アミロイドβ (Aβ)を対象として、(1) Aβの線維形成に至る初期過程のNMRリアルタイム計測、ならびに、(2) Aβ中の「アミノ酸の異性化反応」のNMR実時間計測を実施した。
(1) では、まず、Aβの野生型を用いて、凝集にともなうNMRとCDス ペクトルの変化を時間分解計測した。NMR化学シフトと強度変化を指標として、線維化に至るまでの初期に複数の過程が存在することを確認し、線維化を起こす引き金となる動的なメカ ニズムに関する仮説を提示した。さらに、アミノ酸1残基を変化させることで線維化を抑制、または促進すると言われる2種のAβ変異体を用いて、上記の仮説が妥当であることを明らかにした。成果は内外の学会・国際会議で公表し(招待講演も含む)、論文を国際誌に投稿した。
(2)では、ペプチド中で異性化が起こりやすいアスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)の自発的な異性化反応を同時に計測可能であることを見出し、(i)Aβ中に含まれる3つのアスパラギン酸(Asp1, Asp7, Asp23)で異性化速度が異なること、 (ii)Gluの異性化は、Aspよりも起こりにくいこと、(iii)Aspの異性化は、それぞれ特定のヒスチジン(His)残基により抑制されることを速度論解析で明らかにした。(iii)は、アミロイドーシス(線維化)を加速する可能性が示唆されるAspの異性化に対して、これを制御するHisの役割を明らかにしたものであり、アルツハイマー病など疾患のメカニズム解明と予防に向けた新たな知見として注目される。以上の成果は内外の学会で発表するとともに、論文として 取りまとめ、 すでにJ. Soln. Chem.誌に掲載されることが決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究目的のうち、アミロイドの形成過程に関わるNMRリアルタイム計測を、ほぼ予定通り推進することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1. NMRリアルタイム計測を用いて、アミロイド形成を阻害する条件や物質の探索とその制御機構を明らかにしていく。線維化の抑制が示唆される「ポリフェノール」や脂質 の「ナノディスク」を加えて、抑制の有無と制御の機構を探る。フッ素化アミノ酸でAβを識別する予定である。
2. In-cell NMR による“生きた細胞”への機能性ペプチドの輸送解析を実施する。細胞膜透過性を有する塩基性ペプチド・オクタアルギニンとその誘導体を対象とする。N末端をフッ素化アミノ酸で修飾して、19F NMRでペプチドを識別する。ヒト・血液細胞への取り込みを分単位の時間分解でリアルタイム計測して、定量的な速度論へ展開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在投稿中の論文掲載料として使用を予定している。
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