研究課題/領域番号 |
19K05397
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
上田 顕 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (20589585)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有機伝導体 / 水素結合 / 脱プロトン / π電子-水素連動 |
研究実績の概要 |
π電子-水素連動型有機伝導体の構造多様性の探索、機能開拓を目標として、新物質の開発研究に本年度も引き続き取り組んだ。特筆すべき結果として、カルボン酸部位を有する新規テトラチアフルバレン(TTF)誘導体の合成を達成し、これを用いた新しい「π電子-水素連動型有機伝導体」の開発に成功した。 室温下における単結晶X線構造解析の結果、この系は従来の有機伝導体とは異なり、対アニオンは含まず、TTF-カルボン酸分子と結晶溶媒から構成されていることが分かった。興味深いことに、TTF-カルボン酸分子間には水素結合が形成されており、その際に、一方の分子からカルボン酸プロトンが脱プロトン化して、水素結合部位は-1価となっていることが明らかとなった。さらに驚くことに、この水素結合部の-1価を中和するように、TTF部位が酸化されており、すなわち、この物質は、水素結合部とTTFのπ電子が連動・相関した系であることが明らかとなった。 単結晶を用いた電気抵抗率測定の結果、半導体的ではあるものの、室温下で数 S/cm の良好な電気伝導性を示し、対アニオンを持っていないにもかかわらず、確かにTTF部が酸化され、正孔が生成していることが分かった。また、水素結合部のダイナミクスに興味がもたれるが、現在の測定領域(室温~100 K)において、相転移のような異常は観測されていない。今後は極低温までの磁化率測定やX線構造解析を行い、水素結合とπ電子の連動性について考察する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
水素結合能を有する新しいTTF分子の合成に成功し、これを基に、新しい「π電子-水素連動型有機伝導体」を開発することができたから
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今後の研究の推進方策 |
極低温までの詳細な構造解析・物性測定を行い、水素とπ電子の連動現象を探索する。水素結合部の重水素置換も検討し、新たな水素-π電子連動現象・物性を創出する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、予定していた学会出張が取りやめとなったり、研究活動が一部制限されたことにより、予算の使用計画の見直しが必要となり、次年度使用額が生じた。上述の通り、画期的な化合物が開発できたので、この物質の大量合成、そして構造物性測定を効率的に行えるように予算を配分し、研究を進めていく。
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