研究実績の概要 |
本研究課題では『1分子でトランジスタ機能を有する化合物を、どのように量子化学理論に立脚しデザインするか』という観点から、『開殻電子状態を有する錯体に着目し、スピン状態などにより電気伝導度が大きく異なるような分子を理論設計する』ことを目的としている。その達成のために、(1)実在する1次元錯体や単分子磁石錯体において、スピン多重度などを変えた時の伝導性の変化を、量子化学計算により明らかにし、(2)『分子構造・スピン状態(電子状態)と電気伝導性』の関係性を分子軌道レベルで解明することにより、1分子トランジスタとして機能する錯体の設計指針を構築する。そして(3)具体的な錯体を提案し、予想される物性値を示す、という三点を遂行することを目標としている。 昨年度、金属2核錯体に軌道相補性という概念を導入することにより、2つの金属イオン間の磁気的相互作用を反強磁性的、強磁性的とを自在に作り分けることができる可能性を密度汎関数法(DFT)計算により示すことに成功したが(Magnetochemistry 2020, 6, 10)、2020年度は、さらに研究を進め具体的な化合物を提案し、国際会議での口頭発表(2件)において発表した。また、単分子磁石のスピン・電子状態の研究も東北大学・山下グループとの共同で行い、磁性とスピンの非局在性(伝導性に関係)との関係を示すことに成功した。この成果も論文(Chem. Euro. J., 2020, 26, 8621)にまとめた。加えて、Ru2核錯体とTCNQ誘導体とを組み合わせ配位高分子を作ることにより、吸蔵二酸化炭素により電子状態の変化が起こることを、東北大学・宮坂グループとの共同研究により見出した。この成果は論文(Nature Chemistry, 2021, 13, 191)にまとめた。
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