研究課題/領域番号 |
19K05402
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
高橋 一志 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (60342953)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スイッチング現象 / メカニズム / スピンクロスオーバー / 分子間相互作用 / 熱力学的解析 / 結合異性 / カップリング現象 |
研究実績の概要 |
分子性物質のスイッチング温度や挙動を自在に制御することは、分子性物質のスイッチングのメカニズムの解明という基礎的な観点から重要な課題である。遷移金属錯体の中心金属イオンのスピン状態が低スピンと高スピンとの間で変化するスピンクロスオーバー(SCO)現象について、昨年度中性ヘテロレプティック鉄(III)SCO錯体の転移エンタルピーは原子間接触のない次近接錯体分子間に働く分散相互作用の変化の大きな影響を受けることを見出している。今年度は、同形の結晶構造を持つ三種の大きさの異なる八面体型アニオンを持つ新規イオン性鉄(III)SCO錯体を合成し、SCO転移の熱力学パラメータと分子間相互作用の変化をそれぞれ実験と計算から解析した。アニオンサイズが大きくなるに従い、転移温度が低下し、SCO転移エンタルピーが小さくなることが明らかとなった。分子間相互作用の変化を三種類の計算方法で検討したところ、いずれの計算方法でも原子間接触の小さな次近接錯体分子間の相互作用エネルギー変化と10オングストローム以内の対アニオンとの相互作用エネルギー変化が大きいことがわかり、錯体分子間の最近接相互作用はSCO転移ではほとんど変化しないことが明らかとなった。変化の大きい相互作用エネルギーの中でも、対アニオンとの相互作用エネルギー変化がSCO転移エンタルピー変化を支配していることが示唆された。今年度の知見は昨年度得られた知見と一致しており、SCO転移温度は次近接分子間相互作用変化の寄与が大きく、転移温度の制御の難しさが明らかになった。一方、中性ヘテロレプティック鉄(III)SCO錯体誘導体の結晶構造解析と磁化の緩和挙動ならびに遷移状態の計算から、配位子の回転運動が錯体のスピン状態によりON-OFFスイッチングしている現象を明らかにした。この現象はSCO誘起結合異性化と呼ぶことのできるカップリング現象である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この2年間で計算化学に基づく分子間相互作用の解析法について検討することができるようになった。様々な分子性金属錯体のスイッチングメカニズムを解明するために重要な手法と考えられ、今後の様々な物質系の解析への研究の展開が期待される。さらに、酸化還元活性配位子からなるニッケル(III)錯体の新規な転移現象を見出した。鉄(II)錯体におけるスピンクロスオーバー転移に伴う新規な構造相転移とともに今後の転移メカニズムの解明への研究展開が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまで分子間相互作用について計算化学を利用した解析を行ってきたが、さらに解析対象を鉄(II)錯体や文献既知錯体へ広げ、これまで得られてきた知見の一般性を確認する。 SCO誘起結合異性化現象の前後でのSCO挙動の変化について、SCOの協同性という観点から実験的に解析を進める。 昨年度末に見出した酸化還元活性配位子からなるニッケル(III)錯体の新規な転移現象と鉄(II)錯体におけるスピンクロスオーバー転移に伴う新規な構造相転移に関しても、それらのメカニズムの解明へ向け、実験と計算の両面から研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度開催予定の国際会議が今年度オンライン開催となったため、参加登録費の一部払い戻しがあった。7千円程度の残金と合わせ、次年度予算と合算し研究推進上で有用な試薬や物品の購入のため有効活用する。
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