研究課題/領域番号 |
19K05404
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
松木 均 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 教授 (40229448)
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研究分担者 |
玉井 伸岳 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 准教授 (00363135)
後藤 優樹 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 助教 (30507455)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | モジュール構造変更アナログ脂質 / グリセロリン脂質 / スフィンゴリン脂質 / ホスファチジルコリン / 脂質二重膜 / 相転移 / 高圧力 / 熱測定 |
研究実績の概要 |
生体膜を構成する主要脂質は、グリセロール骨格に2つの脂肪酸とリン酸を介した極性基が連結したグリセロリン脂質である。このモジュール構造は大半の生物種に亘り普遍的に存在し、脂質分子の多様性を生み出す根源となっている。しかし、その一方で、基本モジュール単位(疎水鎖の骨格への結合様式や極性頭部のリン酸を介した結合など)に関しては、大半の膜脂質で共通となっており、例外はほとんど見られない。本研究においては、脂質多様性の原因となっている疎水基と親水基のユニット部分では無く、脂質分子骨格中の共通のモジュール構造自体を変化させ、天然脂質と構造が類似した非天然のモジュール構造変更アナログ脂質を有機合成する。これら非天然アナログ脂質の二重膜物性を調査し、その膜状態をキャラクタリゼーションする。 初年度は、グリセロール骨格の疎水鎖結合部sn-1位およびsn-2位、両方の位置にアミド結合が導入されたスフィンゴリン脂質類似のグリセロリン脂質であるアミド結合型ホスファチジルコリン(PC)を研究対象にした。疎水鎖として飽和脂肪酸(炭素数16のパルミチン酸)を有したジパルミトイルアミドデオキシPC(DPADPC)を有機合成し、その二重膜相転移を調査した。得られた結果を同鎖長で結合様式が異なる同族体のグリセロリン脂質(エステル結合型:ジパルミトイルPC(DPPC)およびエーテル結合型:ジヘキサデシルPC(DHPC))のものと比較し、骨格への疎水鎖結合様式が脂質膜物性におよぼす効果について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、アミド結合型の非天然グリセロリン脂質であるDPADPCの有機合成およびその二重膜観測を行った。ジアミノプロパン酸を出発原料として、トリエチルアミンと塩化パルミトイルを反応させた後、還元を行い、2つのパルミチン酸をアミド結合で連結した疎水鎖アルコールを得た。得られたアルコールを含リン系の五員環化合物と反応させて環を開裂し、目的のリン脂質であるDPADPCを合成した。精製したDPADPCの純度をNMRとLC-MSにより確認後、水中でDPADPCの二重膜分散液を調製した。DPADPC二重膜の相転移を常圧下においては示差走査熱量法で、高圧力下においては光透過法で追跡した。得られた相転移温度および圧力データからDPADPC二重膜の温度-圧力相図を構築し、相転移熱力学量を算出した。熱量測定の結果、DPADPC二重膜は熱履歴に依存した大きな吸熱ピークを示したことから、常圧下、ゲル相は準安定相であり、容易に水和結晶相を形成し、大きな鎖融解エネルギーを有することがわかった。また、常圧下では、ゲル相に多形は見られなかったが、高圧下においては、ゲル相は多形を示し、ゲル相間転移である前転移および二重膜-非二重膜転移である指組み構造化を観測した。さらに高圧下、ゲル相の安定性が変化することが明らかとなった。これらの結果を以前に研究がなされたDPPCおよびDHPC二重膜のものと比較した。主転移熱力学量および指組み構造ゲル相形成の最小圧力は、DPADPC二重膜が最大になったことから、二重膜中における分子間相互作用はDPADPCが最も強いことを結論づけた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の実験においては、疎水鎖長16の飽和脂肪酸を有するアミド結合型PCであるDPADPCの有機合成およびDPADPCが形成する二重膜の相転移観測を行った。本年度は、DPADPCの同族体で、長さの異なる疎水鎖(12、14、18)を有するジラウロイルアミドデオキシPC(DLADPC)、ジミリストイルアミドデオキシPC(DMADPC)およびジステアロイルアミドデオキシPC(DSADPC)の有機合成を行い、これら飽和アミド結合型PCが形成する二重膜の相転移を同様に調査する。得られた結果を系統的に比較し、アミド結合型PCの二重膜相挙動におよぼすアシル鎖長の影響について考察する。 続いて、極性頭部転置型リン脂質に焦点を当てる。天然のグリセロリン脂質は、その分子構造中において疎水鎖、骨格、リン酸、極性頭部の順序は不変であり、共通のモジュール配列となっている。このモジュール配列を疎水鎖、骨格、極性頭部、リン酸に変化させた極性頭部転置型のグリセロリン脂質を有機合成し、その二重膜相転移を調査する。本研究では、脂質膜研究における代表的なモデル脂質であるジパルミトイルPC(DPPC)に着目し、極性頭部転置型のDPPC類似リン脂質DP-コリンホスフェート(DPCP)同族体の合成を試みる。ここで、末端部分に位置するリン酸の電荷は化学結合で修飾制御することが可能なため荷電状態の異なる3種類(アニオン型、カチオン型、中性型)の同族体リン脂質の分子設計が可能であることから、これらの極性頭部転置型リン脂質を有機合成する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に、これまで長年使用し経年劣化している蛍光分光光度計を購入する予定であったが、高圧測定対応の顕微鏡が故障してしまい、装置修理に科研費を使用した。その関係で初年度に蛍光分光光度計の購入が困難となったために、代替として巨大ベシクル作製装置を購入した。したがって、本年度の備品費用に前年度の繰越金を併せて蛍光分光光度計の購入を予定している。残金は、実験に必要となる消耗品、旅費および分担者分配金として使用予定である。
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