研究課題/領域番号 |
19K05407
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
鎌田 海 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (90315284)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光触媒 / ナノシート / 生体分子 / 半導体 / 発光酵素 / 発光タンパク質 |
研究実績の概要 |
本年度は新規概念の光触媒反応系を構築するため、可視光で励起可能な半導体として硫化モリブデン(MoS2)を選択した。MoS2のバルク結晶をホルムアミド溶液中でボールミルによる粉砕・剥離処理を最大2週間程度行うことで、硫化モリブデンナノシート(MoS2NS)の懸濁液を作製した。このMoS2NSのゼータ電位を測定したところ、pH = 7-9の範囲で負に帯電しており(等電点はpH ~ 6程度)、今後、発光生体分子と結合させるためには、同じpHで正に帯電した生体分子とより強固な結合を作ると予測された。さらに、この懸濁液の光吸収スペクトルを測定したところ、可視光波長領域で光吸収が見られ、可視光駆動型半導体光触媒として機能することが示唆された。 また、MoS2NSが半導体光触媒として駆動するかどうかを調べるため、白金板上にMoS2NSをディップコーティング法で薄膜化(Pt/MoS2NS)し、この電極の光電気化学的特性を評価した。種々の波長の紫外光あるいは可視光(UV365 nm、青473 nm、緑529 nm、赤636 nm)照射下での光電流(応答)を測定した。その結果、アノード分極下において、低エネルギーの赤色光および緑色光では光応答が見られなかったが、青色光(および紫外光)照射で明確なアノード光電流の発生が見られた。この結果によりMoS2NSが可視光応答型n型半導体として機能していることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バイオルミネセンスすなわち可視光により光触媒として機能する半導体ナノシートとして硫化モリブデンナノシート(MoS2NS)を含む懸濁液を合成できた。さらに、このMoS2NSが可視光(青色光)の下、光アノード電流を発生し、可視光照射により半導体機能を引き出せることが明らかとなった。特にバイオルミネセンスは青色発光が主要なため、MoS2NSは本研究で提案する新規光触媒反応系あるいはバイオイメージング系に適切であると考えられる。よって、今後の発光生体分子との結合および光触媒能や蛍光能の評価のための基盤が整ったため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、バイオルミネセンスを生じる生体分子(酵素あるいはタンパク質)と作製したMoS2NSを静電的に結合し、新しいバイオ-無機複合材料の合成を行う。生体分子としてペルオキシダーゼ(酵素)やイクオリンを選び、これらをMoS2NSと混合することで結合させる。ここで、両者が反対の電荷を持つpH域で結合させることで、静電的結合が促進されると考えられる。さらに、MoS2NSとの結合が酵素やタンパク質の活性に与える影響を遊離分子と比較することで評価する。 その後、合成した複合材料を用いて、バイオルミネセンス(ペルオキシダーゼ、イクオリンは共に反応基質の添加により青色発光を示す)によるMoS2NSの光触媒反応を試みる。ここでは、貴金属イオンの光還元をモデル反応に利用して、提唱する新規光触媒反応系が実現するかどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で使用する無機ナノシートは、当初、独自に合成して利用する予定であったが、市販されている試薬を用いることが可能となった。よって、独自ルートによる合成法と比較して低廉な予算で実施することができたため。次年度に高価な発光生体分子を必要十分量購入する費用に充当する予定である。
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