発光生体分子-無機ナノシートを用いた自己光源型光触媒の開発を推進するため、今年度は微弱生物発光を効率よく吸収するナノシートを使用した。従前の鉄チタン酸ナノシート(FTO NS)に対して、一部の鉄をコバルトで置換した鉄コバルトチタン酸ナノシート(FCTO NS)は、黄褐色のFTO NSに対して暗褐色であり、広い波長領域の光吸収特性を示した。FCTO NSを用いて貴金属イオンの光還元反応を実施した。白金の光還元量はFTO NS < FCTO NSとなり、光吸収特性の改善による活性向上を確認した。さらに、反応系に添加した犠牲剤メタノールの濃度変化を追跡した結果、時間とともに濃度は直線的に減少した。よって、自己光源型光触媒では貴金属イオンの光還元とメタノールの光酸化の同時進行が明らかとなった。 本研究のもう一つの柱である「発光生体分子-蛍光性層状半導体を用いた蛍光イメージング法の開発」を検討した。ユーロピウム含有蛍光性チタン酸ナノシート(ETNS)に発光反応を触媒するタンパク質を結合し、特定細胞(HeLa細胞)に対する標的性向上のために葉酸で修飾した。結果的に、葉酸受容体を持つHeLa細胞表面へのナノシートの集積を確認したが、ETNS蛍光が微弱のため、細胞分布の蛍光画像化は現有の顕微鏡下では困難であった。 研究期間全体を通じて本研究では以下の知見を得ることができた。自己光源型光触媒について、(1)可視光応答性の光触媒ナノシートを用いることで、微弱な生物発光を光源とした光触媒反応が実現した。(2)ナノシートの光吸収特性や表面反応性に光触媒活性が影響を受け、特に安定な酸化物で可視光応答領域の広いナノシートが適切であった。一方、蛍光性層状半導体によるバイオイメージングの検討では、現時点ではナノシート由来の蛍光強度が低いため、蛍光像として特定細胞の分布を画像化することは困難であった。
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