研究課題/領域番号 |
19K05412
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研究機関 | 和歌山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
綱島 克彦 和歌山工業高等専門学校, 生物応用化学科, 教授 (90550070)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 準包接水和物 / ホスホニウム塩 / 電気化学インピーダンス / 不飽和結合 / イオン伝導 |
研究実績の概要 |
四級オニウム塩をゲスト、水分子からなるケージをホストとする準包接水和物は、ケージ中にガス分子を包蔵することができるため、新たなガス貯蔵/運搬材料として注目されている。四級オニウム塩の対アニオンは包接されておらず、ケージの構成部位として含まれるか、或いは近傍にて移動できる状態となっているのでイオン伝導体となる可能性があるが、その詳細な挙動は十分に調査されていない。そこで申請者は、ガス分子の包蔵の有無が準包接水和物のイオン伝導性に大きく影響を及ぼす可能性があると考え、これを交流インピーダンス法で電気的信号として検知してガスセンサーへの応用にチャレンジすることとした。 2022年度は、本来は3か年での期間であった本研究計画を延長した4年目となった。準包接水和物のイオン伝導性の発現のメカニズムの解明を目的として、単結晶性の高い準包接水和物の交流インピーダンス測定による解析を前年度より継続的に進めたところ、イオン伝導の可動イオンとしてプロトンの可能性が高いことがわかってきた。さらに、イオン伝導性はゲストオニウム塩のカチオン構造にも少なからず依存すると考えられるため、カチオン構造に不飽和結合や環状構造を導入して対称性をやや崩した構造の四級ホスホニウム塩を設計して合成し、新たなゲスト物質をシリーズ化して提案している。これらの置換型ホスホニウム塩による準包接水和物系では、吸発熱量については無置換型ホスホニウム塩のそれと比べて遜色ないものであったが、やや低い平衡温度を示す傾向が見られた。また、これらのホスホニウムカチオン型準包接水和物系では準安定相を生じるケースもある。これらの理由から、現時点ではまだ十分な性能を発揮するゲスト物質設計には至っていない。これらの準包接水和物生成挙動および水和物結晶構造等の解析結果の一部については論文にて報告している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、2022年度に準包接水和物の交流インピーダンス挙動に及ぼすガス包蔵の影響を調査する計画であったが、交流インピーダンス解析の条件最適化に労力を要したことや、最適なゲスト物質の化学構造の絞り込みもまだ十分ではないこともあり、計画はやや遅延している。 すでに、準包接水和物結晶に交流印加を行うと交流インピーダンス応答が観測され、イオン伝導性が発現することを確認している。加えて、結晶析出の際の冷却速度を適度に制御することにより単結晶性の高い試料を調製することができ、かつ交流インピーダンス測定のアウトプットであるナイキストプロットから粒界抵抗の成分を排除することも合わせて、より精度の高いイオン伝導性評価条件も確立している。これらの技術から解析を進めたところ、プロトンが主たる可動イオン種であることも分かってきた。 これを受けて、ゲスト物質をテトラブチルアンモニウム臭化物に加えてテトラブチルホスホニウム臭化物にも拡張し、かつ当研究室の精密有機合成技術を駆使して不飽和結合(炭素-炭素二重結合)をカチオンアルキル鎖に有する非対称ホスホニウムカチオン(トリブチルアリルホスホニウム、トリブチルブテニルホスホニウム、トリブチルペンテニルホスホニウムの3種のカチオン)を設計して新たな準包接水和物の創製を試みた。これらの準包接水和物は、その平衡温度はやや低温側にシフトしたものの、無置換型と遜色ない熱容量を有するものであることが分かった。この成果については、論文にて報告済である(Journal of Chemical & Engineering Data, 67, 1415-1420 (2022))。さらなる発展型として、ホスホニウムカチオンの1つの側鎖に環状アルキル基を含むホスホニウム臭化物の合成も新たに手掛けており、これらの準包接水和物生成挙動と水和物結晶構造の解析も進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、テトラブチルアンモニウム臭化物および種々の置換型ホスホニウム臭化物の準包接水和物単結晶の交流測定の条件最適化を行い、それらのイオン伝導性を評価してきた。ただし、四級ホスホニウムカチオン系では準安定相が出現するケースがあり、さらに高性能なゲストカチオンおよびアニオンの設計が必要である。準包接水和物のプロトン伝導挙動を解析した研究例はほとんどないため、今後も継続して交流インピーダンス特性等の電気伝導性の検証も続行する。 さらに、イオン伝導性に関する議論をより多角的に行うためにも、新しいゲストホスホニウムカチオンの設計と合成を継続する。具体的には、ゲストカチオンの構造がイオン伝導性に与える影響を調査するために、特異な置換基(例えばプロトン伝導サイトとなるような水酸基など)を有するホスホニウムカチオンを設計して、その準包接水和物を調製する。加えて、可動イオン挙動と高いイオン伝導性に関する議論をより深化させるために、ゲスト物質のアニオンにも着眼して化学構造設計を推進する。現時点では、プロトン伝導サイトとなるような官能基として、水酸基に着目している。これらの新たな構造によりイオン伝導やガス包蔵機能を有する新たな準包接水和物構造を提案できる可能性がある。これらの新しい水和物系を以て、二酸化炭素、メタン、希ガス等のガス類の包蔵と、それらのガス包蔵型準包接水和物の相平衡挙動を解析するための実験的環境整備も継続する。ただし、これまでの社会情勢により研究成果発表の機会が極度に減少したこともあり、2023年度を最終年度として事業の継続推進と事業締めくくりとしての学会発表・論文公表を行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
事業の当初の計画では、国際会議に少なくとも年1回は参加して研究成果発表および研究情報収集を行う予定であったが、昨今の社会情勢により、対象となる国際会議が激減したことにより当初の計画を達成できなかったことが主たる理由である。 2023年度においては、本研究事業の研究成果報告や調査につき、対象となる国内外学会等に参加する。さらに、新しい準包接水和物のゲスト物質が設計されて見出された場合には、その合成にかかる材料費や実験器具等の消耗品費に充当する予定である。
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