今年度は昨年度の結果を踏まえ、最初に中性子小角散乱(SANS)測定用のシアセルの高度化を行い、イオン性界面活性剤溶液で観測されるずり粘稠挙動(粘度が急激に上昇する挙動)の発現機構を明らかにすることを目指した。 昨年度制作したSANS測定用シアセルでは、低い剪断速度範囲において安定して動作しない問題が生じていたが、ギア比の変更や、高トルクのモーターを導入して解決した。また、試料のマクロな状況(泡の存在など)を目視できるようにセルの窓の部分を改良した。 このシアセルを用いて、カチオン性ジェミニ型界面活性剤水溶液についてシア-SANS測定を行った。界面活性剤は水溶液中では紐状(棒状)ミセル構造を形成する。そのミセルが静置条件ではランダムに分散していることをまず確認した。ずり粘稠が観測される剪断速度よりも速い流動を印加すると、ミセルは流れ方向と平行に配向し、その配向度は剪断速度の増加に伴って高くなることがわかった。また、流動を印加するとセルの流路の幅(1.5mm幅)において、速度勾配ができる。流路の内側と外側でそれぞれ中性子(ビーム幅0.5mm幅)を照射して測定した結果、速度勾配が緩急によってミセルの数が変化することも確認され、シアバンドの存在を示唆する結果を得ることに成功した。現在、定量解析を行い、ずり流動印加による微視的なミセルの構造変化と巨視的なシアバンド形成の因果関係をさらに解析を進めている。現在、速度勾配の緩急の影響を詳しく調べるために、シアセルの窓材を変更し、放射光X線を用いて流路内を細く分割して測定することを計画している。また、今回の成果を基に、ずり粘稠とは逆に、流動の印加によって粘度が減少する「ずり減粘」の機構解明を目指した測定への展開を図っている。
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