本研究では、放射光X線分光等の高エネルギー分光を駆使して、リチウムイオン電池(LIB)等の二次電池電極材料の電子状態と充放電電位・電極性能との相関の解明に取り組んだ。従来電極材料への適用事例が極めて少ない軟X線発光分光(XES)や共鳴光電子分光(RPES)などを積極的に用いて、電極材料の価電子帯、および伝導帯を元素選択的・電子軌道選択的に明らかにした。価電子帯の上端と伝導帯の下端のエネルギー位置は酸化還元電位に直接関係しており、様々な電極材料についてそのエネルギー位置を系統的に調べることで、新規な高電位正極材料の開発に資する知見を得ること等を目標とした。 様々な電極材料を対象としたが、一例としては、酸化還元に活性な同一の遷移金属を有する酸化物系材料とリン酸系材料に対して軟X線吸収分光(XAS)とRPESを実施し、電子構造と酸化還元電位との関係性の解明に成功した。電気化学的な情報と一致する結果を得ることができた。LIBと類似の充放電反応を示すナトリウムイオン電池の電極材料系の電子状態解析からも、一貫した結論が得られつつある。また、主に遷移金属酸化物系材料を中心にXESによる電子状態解析にも取り組み、遷移金属の3d軌道と酸素2p軌道の混成および電荷移動効果が、酸化還元電位に加えて、充放電サイクル特性に大きく影響する電極の構造安定性に関係していることも突き止めた。XESはRPESと同様に価電子帯の情報を得る手法であるが、直感的に状態密度を観測できるRPESとは異なり、中間状態としてXASを経由していることで複雑な解析を必要とする。XESスペクトルに多重項計算などを用いた解析を行うことで、混成や電荷移動効果等の詳しい情報を得られた。以上のように、複数の電極材料に対する電子構造の詳しい知見を得ることに成功した。
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