研究課題/領域番号 |
19K05420
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
小野 克彦 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20335079)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | n型半導体 / 有機薄膜太陽電池 / 有機ホウ素錯体 / 分子集合体 / 光吸収特性 |
研究実績の概要 |
有機薄膜太陽電池の実用化を考えた場合、非フラーレンn型半導体の開発は最重要課題である。フラーレン誘導体の分子構造は、球状かつ大きなπ電子系で特徴づけられる。これが局所型電荷分離構造を抑制し、ドメインの電子輸送性を発現させる。そこで、他の構造体で同様の効果を与えるものがないかと考え、テトラポッドの構造工学に注目した。本研究では、テトラポッド模型と同様な効果や機能が期待されるテトラポッド様ホウ素錯体化合物を合成し、その物性を調査した。これまでの研究実績としてつぎの事項が明らかになった。 ①ホウ素錯体化合物について5種の誘導体を合成することに成功した。熱重量示差熱分析から、これらは300 ℃まで耐熱性をもつとともに、その温度範囲で相転移を示さなかった。このため、それらは高い熱安定性をもつ物質であることが分かった。②溶液吸収スペクトルでは光吸収帯が400-600 nmに現れ、その最大モル吸光係数は非常に高かった。さらに、薄膜吸収スペクトルでは末端波長が800 nmまで達した。このため、標的分子は薄膜で優れた光吸収特性をもつことが分かった。③電気化学測定からフラーレン誘導体と同等の電子親和性が観測された。分子軌道計算では周辺部のホウ素錯体にLUMOが局在するため、薄膜でn型半導体特性が期待される。④初年度の課題に対して分子構造の改良に取り組み、標的分子の溶解性を改善した。この結果、スピンコート法で薄膜を作製できた。 残る課題として導電性ポリマーの選択と太陽電池の評価が挙げられる。本年度はコロナ禍で研究活動が制限され太陽電池評価に至らなかったが、このような状況下にあって次年度につながる研究成果を上げることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目の目標は、テトラポッド様ホウ素錯体化合物を合成し、その物性を調査するとともに太陽電池特性を評価することであった。しかし、コロナ禍が深刻になり、制限された中での研究活動を強いられた。このため、合成と物性に関する知見は得られたが、太陽電池特性に関する知見は得られなかった。これまでに合成および物性調査から次の事項が明らかになった。①ホウ素錯体化合物の合成法が確立できた、②熱重量示差熱分析から300 ℃までの耐熱性が観測された、③溶液吸収スペクトル測定から光吸収波長領域は400-600 nmであり、極大値のモル吸光係数は非常に高い値であった、④薄膜吸収スペクトルで末端波長は800 nmに達した、⑤電気化学測定でフラーレン誘導体と同等の電子親和性が観測された、⑥修飾基により分子形状が大きく変化することが示された、⑦LUMOは周辺ホウ素錯体部分に分布することが計算結果から示唆された、⑧溶媒への溶解性があり、スピンコート法で薄膜が作製できた。 以上のように、コロナ禍でも忍耐強く研究活動を実施できたこと、太陽電池評価の準備を整えたことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は研究課題の最終年度に当たるため、これまでに開発した標的分子の太陽電池評価を中心に研究を進める。当初予定していた共同研究が諸事情で実施不可能になり、新たに共同研究先を探す必要に迫られた。太陽電池評価に強い共同研究者を早期に決定し、本研究の有効性を確認したい。このため、共同研究が行い易い近隣の研究機関を中心に選定を急ぐ。これに合わせて本研究課題に研究室の人員を集中させ、物質開発と物性評価を効率的に行う研究体制を整える。 すでに評価サンプルが得られていることから、早期に太陽電池特性を調査することでn型半導体としての課題を明らかにし、つぎの分子設計にフィードバックする。効率的な研究活動を行うには、研究室の健康的な運営が最重要である。新型コロナウイルスの感染拡大防止措置を徹底し、非フラーレンn型半導体開発の重要性を共有することで、研究室が一丸となって本研究課題に取り組む体制を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度からの繰越金は60万円になり、2020年度の直接経費は配分額と合わせて170万円になった。コロナ禍で研究を進展させるため、実験の効率化を考えて分子軌道計算用ワークステーションと分取カラムの購入に経費の一部(それぞれ18万円と25万円)を使用した。消耗品として有機合成用試薬(19万円)と消耗品器具(6万円)を購入した。その他の項目として、分光器等修理(40万円)、学会誌投稿料(21万円)、学内機器使用料(4万円)に支出した。一方、旅費と謝金の使用はなかった。この結果、翌年度へ37万円を繰り越すことになり、2021年度の直接経費は配分額と合わせて147万円になった。 2021年度の使用計画では、有機合成用試薬(70万円)と消耗品器具(32万円)の支出を予定している。その他の項目として、国内旅費(15万円)、学内機器使用料(15万円)、学会誌投稿料(10万円)、謝金(5万円)を予定している。 次年度は、これまでに開発した標的分子の太陽電池評価を行い、その有効性を明らかにする。また、分子開発も継続しておこなう。上記の使用計画はこの目標を達成するためのものである。
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