光有機反応ではラジカル機構で進行する反応が多く、その反応機構の解明や学術的な面からも有機ラジカルに関する研究が進展している。ラジカル種は反応性が高いため、新たな有機ラジカル分子を創製し磁気的相互作用および反応性を解明することで、これまでの概念を覆す新たな反応やそれに伴う結合形成、分子骨格を見出す可能性があり、基礎研究として非常に重要である。しかしその一方で、反応性が高いために有機ラジカル種は扱いが困難なことが多く、研究報告例が少ないのが現状である。本研究では、光照射による『結合組み換え』で構造が変化するフォトクロミック分子をリンカー骨格とした新規フェノキノン誘導体を用い、光の作用によってキノイド構造とジラジカル性の寄与をコントロール可能な新たな分子の創製および光反応を解明し、扱いが困難な有機ラジカル分野の新たな研究戦略指針を開拓することを目的とする。具体的には、光照射による結合組み換えが起こるノルボルナジエン誘導体をフォトクロミック分子としてリンカー骨格に用いた。 前年度までの研究成果から、目的化合物であるフェノキノン誘導体への光照射によって生成する光誘起ラジカル種が非常に短寿命種であることを踏まえ、本年度は、量子化学計算による反応機構の解明を行った。また、計算結果も合わせて、これまでに行った実験データを再度詳細に検討した結果、目的化合物である新規フェノキノン誘導体は、光照射によって超短寿命な過渡種を経て、193 Kにおいて75 nsの寿命を有する三重項ジラジカルを形成し、元のフェノキノン誘導体に戻ることを明らかにした。今回の目的化合物では、光照射で生成するジラジカル種が短寿命種ではあったが、光の作用によってキノイド構造とジラジカル性の寄与をコントロール可能な新たな分子の創製および光反応を解明し、扱いが困難な有機ラジカル分野の新たな研究戦略指針の一つを提案することができた。
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