研究実績の概要 |
本年度は,単離が困難であった[Au2(BiSC)2)(IiPr)2]2+(BiSC = C(Ph2SNMe)2, IiPr = N,N-ジイソプロピルイミダゾール-2-イリデン)錯体を再検証するため,BiSCとIiPrで支持された金(I)錯体(IiPrAuCl)を反応させることで,カルボン-NHC金(I)錯体[Au(BiSC)(IiPr)]TfO (1a)の合成と構造解析を行い,更に1aと過剰量のIiPrAuClとの反応も行い,その反応性についても調査した。AgTfO存在下, BiSCと1当量のIiPrAuClを反応させることで[Au(BiSC)(IiPr)]TfOを78%の収率で得た。また, 単結晶X線構造解析によって分子構造を明らかにしたところ, [Au(BiSC)(IiPr)]TfOのNHC-Au距離は同様の構造をもつ[Au(BiSC)(IMe)]TfOと比較して短くなった。[Au(BiSC)(IiPr)]TfOに1当量のIiPrAuCl反応させたところ, カルボン炭素のジェミナル配位は起こらず,硫化ジフェニルとNHCの不均化生成物を含む混合物が得られた。また, 5当量のIiPrAuClを反応させた場合は, NMR測定の結果からカルボンの中心炭素を反応系内に放出し, IiPrを母体とする発光性錯体が得られたことが確認されたが, 結晶性が悪く単離ができなかった。そこで結晶性を高めるために, SbF6をカウンターアニオンとする[Au(BiSC)(IiPr)]SbF6 (1b) を合成し, 5当量のIiPrAuClと反応させたが同様に単離には至らなかった。以上のことから, BiSCとIiPrを配位子とするカルボン―NHC金(I)錯体は, 過剰量のIiPrAuClと反応させた場合はカルボン炭素を系内に放出しIiPrを母体とする発光性錯体を形成することがわかった。
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