2ービニルピリジンをマイケルアクセプターとした共役付加反応を題材として、3種類のキャビタンド型ホスホン酸が有する触媒能の探索を行なった。3種類とは、キノキサリンを3枚・シス型2枚・トランス型2枚持つキャビタンドのことである。対照となるホスホン酸として、ジフェニルヒドロホスフェートを用いた。その結果、求核剤としてアニリンとピラゾールを使って2ービニルピリジンへの付加反応を競争させたところ、対照キャビタンドを用いた場合は生成物のほとんどがアニリン付加体であったのに対し、3種類のキャビタンドを用いるとピラゾール付加体が増加する傾向が認められた。2ービニルピリジンに対して量論量のホスホン酸を用いた場合について、対照化合物は変わらずアニリン付加体を多く与えたが、キャビタンド化合物はピラゾール付加体を圧倒的に多く与えた。特に、キノキサリンをシス位やトランス位に2枚だけ持つキャビタンドに関しては、ピラゾール体が大変多く生成した。ゲスト分子であるマイケルアクセプターがキャビタンドに包接されることによって生成物の選択性が有意に制御されるという、我々の知る限り、初めての有機触媒・ブレンステッド触媒による知見となった。この意義は、電子的な要因や立体的な要因に頼ることなく、超分子相互作用による包接を通した要因によって化学選択性を制御できるという点に所在する。シス位にキノキサリンを2枚持つキャビタンド型ホスホン酸はInherentキラリティーを有しており、アリルシランの面選択性を制御する分子認識能を持つことを既に初年度に明らかにしている。研究期間全体を通じて得られたこれら知見は、不斉反応や選択的反応との関連において、点不斉・面不斉・軸不斉・らせん不斉の四大不斉源に頼らずに、不斉制御を可能にする意義を有しており、生体関連反応や生命機能化学との関連においても、従来にはない人工酵素を生み出す価値を持つ。
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