研究課題/領域番号 |
19K05431
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
和泉 博 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (20356455)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 立体配座 / ディープラーニング / SARS-CoV-2 / タンパク質 / 分子構造コード化検索 / 機能性有機分子 / IUPAC命名法 / 創薬 |
研究実績の概要 |
1)タンパク質超二次構造コードを用いた構造パターン解析 昨年度構築したタンパク質立体配座予測ソフトウェア(SSSCPrediction)は平均一致率が90%と高い精度を持っていたが、アミノ酸配列のどこの精度が低いのかまったくわからなかった。新たに2個の独立するディープラーニング予測システム(SSSCPred200:200アミノ酸残基、15万データ数、SSSCPred100:100アミノ酸残基、35万データ数)を構築し、立体配座予測比較ソフトウェア(SSSCPreds)を完成させた。検証を行ったところ、各システム間一致率の値の大きさがサブユニット立体配座可変性の良い指標となり、X線構造解析のための結晶化の容易さの判定に利用できることがわかった。 SARS-CoV-2ウィルスは現在世界規模で脅威となっている。SSSCPredsを用いてその構造未知部位を含むタンパク質の立体配座可変性予測を行い、性能評価を行った。スパイクタンパク質の受容体結合モチーフのフレキシビリティーをよく再現するとともに、S2サブユニットに極めて珍しいモチーフが見出された。58万サブユニットデータをもつkeyword-tagged datasetの検索から、このモチーフはリン酸に関連するタンパク質との構造相関が示唆された。これらの結果に基づいて、post-fusionヘアピン状態への未だ構造がわかっていないサイトの立体配座変化について、host membraneとfusion peptideとの相互作用だけではなく、前述のモチーフとリン脂質のようなリン酸を含む基質との相互作用に起因する、連続するαヘリックス型立体配座へのAGFIKQYGDCLGDIAARDLIアミノ酸配列付近での構造変化を予測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.タンパク質超二次構造コードを用いた構造パターン解析について、一般のタンパク質にむけた立体配座可変性ディープラーニング予測システムを完成させただけでなく、その応用としてSARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合モチーフおよびORF8タンパク質のフレキシビリティーを明らかにし、D614G変異サイトと相互作用可能な近傍にある極めて珍しいS2サブユニットのモチーフを見出した。ACS Omegaのsupplementary journal coverに選ばれたことから、達成度として①と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
3D-MCS(最大共通部分構造)記述子の国際規格策定に結びつけるために参加を予定していたphysical organic chemistryの国際学会が2022年に延期になっており、1.タンパク質超二次構造コードを用いた構造パターン解析を引き続き行う。SARS-CoV-2多重変異株の出現が大きな社会問題となっている。立体配座可変性が変異株の感染性向上、中和回避能の一要因になっているものと考えられる。そこで、D614Gをはじめとするアミノ酸変異の解析にSSSCPredsソフトウェアが利用できないか試すとともに、今後起こりうるアミノ酸変異と機能との相関解析にどこまで適用可能か検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた立体化学に関する国際学会研究成果発表をはじめ、学会発表がコロナ禍で延期されたため、国際学会に関係する2.有機フラグメント構造設計プログラムの開発を後回しにして、1.タンパク質超二次構造コードを用いた構造パターン解析を優先した関係で次年度使用が生じた。IUPAC規則の改正につながるように、2022年7月に延期された立体化学に関する国際学会研究成果発表やオープンアクセス論文発表への使用を予定している。
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