研究課題/領域番号 |
19K05431
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
和泉 博 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (20356455)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 立体配座 / ディープラーニング / SARS-CoV-2 / タンパク質 / 分子構造コード化検索 / 機能性有機分子 / IUPAC命名法 / 創薬 |
研究実績の概要 |
1)タンパク質超二次構造コードを用いた構造パターン解析 SARS-CoV-2ウィルスはアルファ株、デルタ株、オミクロン株と次々に多重変異株が出現し世界規模で脅威となっている。昨年度3個の独立するディープラーニング予測システムを構築し(SSSCPreds)、立体配座可変性の予測に利用できることを示しており、予測精度を調べるため実験データとの比較を行った。予測から得られたSARS-CoV-2 受容体結合ドメイン配列の柔軟性/剛性マップは、deep mutational scanning実験から得られた結合親和性及び発現量マップとよく相関していた。 そこで、SSSCPredsの予測データから、一か所のD614G変異のみで一気に世界中に広がった実験事実について考察した。D614の柔らかさ、G614のその他の配座の硬さの予測結果から、クライオ構造についてSSSCの詳細な解析を行った。すると、D614、G614とも類似する配座をとっており、通常のタンパク質とは逆巻きの左巻きヘリックスと共通する配座と一致することがわかった。グリシンのみキラリティーを持たないことから、その配座を安定化することができ、切断されやすいS1ユニットの排出抑制、さらには発現量増加につながる実験事実をよく説明することができた。次に、多重変異株変異サイトの立体配座可変性予測結果の比較を行った。アルファ株のN501Y変異は柔軟なサイトに当たり、柔軟性/剛性マップパターンは野生株と非常に類似しており、アルファ株のみ中和回避能がほとんど低下しない実験事実をよく支持していた。また、変異サイトの予測立体配座可変性がカリフォルニア、インドで広がったイプシロン株、デルタ株の発現量増加に伴う感染性向上及び南アフリカで見つかった、ベータ株、オミクロン株、ブラジルで見つかったガンマ株の中和回避能の違いとよく相関した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.タンパク質超二次構造コードを用いた構造パターン解析について、今年度話題になったディープニューラルネットワークを用いたタンパク質立体構造予測システムAlphaFold2でもSARS-CoV-2多重変異株についての論文は見当たらず、構築したSSSCPredsの立体配座可変性の予測データが多重変異株の中和回避能及び発現量増加に伴う感染性と高い相関性を示すことが出来たことから、達成度として①と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
3D-MCS記述子の国際規格策定に結びつけるために参加を予定していたphysical organic chemistryの国際学会が2022年に延期になっており、1.タンパク質超二次構造コードを用いた構造パターン解析を引き続き行うとともに2.有機フラグメント構造設計プログラムの開発を行う。SSSCPreds予測で得られる柔軟性/剛性マップパターンとSARS-CoV-2多重変異株のneuropilin-1との相互作用の相関を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた立体化学に関する国際学会研究成果発表をはじめ、学会発表がコロナ禍で延期されたため、国際学会に関係する2.有機フラグメント構造設計プログラムの開発を後回しにして、1.タンパク質超二次構造コードを用いた構造パターン解析を優先した関係で次年度使用が生じた。立体化学に関する国際学会研究成果発表やオープンアクセス論文発表への使用を予定している。
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