研究課題/領域番号 |
19K05435
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
長谷川 英悦 新潟大学, 自然科学系, 教授 (60201711)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 有機光試薬 / 有機光触媒 / ベンズイミダゾリン / ベンズイミダゾリウム / レドックス対 / 電子水素ドナー / メタルフリー還元 / ラジカルイオン |
研究実績の概要 |
今,光を用いる有機合成が大きな注目を集め,さらに低エネルギーの可視光を吸収し,かつグリーンケミストリーに合致したメタルフリー(希少・高価・残留懸念ある遷移金属を用いない)光試薬と光触媒の開発が強く求められている。還元型ベンズイミダゾリン(BIH)と酸化型ベンズイミダゾリウム(BI+)は,補酵素NADHとNAD+に類似の人工酸化還元(レドックス)対である。本研究では,種々の置換基Rを有する光試薬BIH-Rと光触媒BI+-Rを多様な有機基質の還元反応に適用して作用機構の解明を行い,その特性を明らかにして性能向上に繋げる。この還元反応系で発生する有機ラジカルアニオンの新たな反応制御法を開発する。また,無機物質の還元(酸素分子から過酸化水素発生,金属イオンから金属粒子生成)を試みる。さらに,BIH-RとBI+-Rの新たな物性探索を行い新機能開拓にも取り組む。2021年度の研究実績概要は次の通りである。アリールオキシド置換体BIH-ArO-およびBI+-ArO-と2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)の協働光触媒法(TEMPO法)の適用基質拡張を達成した。また,ArO-部位との配位相互作用による活性低下の懸念からこれまで非使用だったルイス酸存在下の反応を試みて新規協働物質を開拓した。BIH-Arの反応は酸素非存在下が常識であったが,先に室温・空気下での酸素化・還元を実現してそのワンポット化にも成功し,今年度は適用基質の大幅な拡張を達成した。さらに,BIH-Arが適用可能な新反応基質も見出した。また,先にアミノアリール置換体BI+-PhNR2と多環アリール置換体BI+-Arが協働光触媒法(BIH法,ヒドリド法,後述)に適用可能であることが示され,今年度は反応機構解明(レーザー分光とDFT計算)と反応条件改善に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
反応系内でBIH-ArOHからBI+-ArO-を発生させる触媒手法(BI+-ArO-系内発生法)の有効性はBIH-Ph協働法(BIH法)とヒドリド還元剤協働法(ヒドリド法)で示しているが,TEMPO法にも適用可能であることを実証した。BI+-ArO-はBIH-ArOHから二段階で合成するため,本手法はより簡便な新規触媒法になる。次に,TEMPO法を種々のα-スルホニルケトンへ適用してα-オキシアミノ化を達成した(米国化学会 ACS Omega誌に発表)。その途上で,カルボニル基への分子内水素結合によるα-スルホニルケトンの電子受容性上昇と反応性向上を発見し,ルイス酸性物質(金属イオン,プロトン供与体) による反応加速の可能性を予想して実証に取り組んだ。アミノアリール置換体BI+-PhNPh2の光触媒機構について,TD-DFT計算から示唆された分子内電子移動状態の観測に成功しているが,分子内電子移動状態と基質および協働物質との相互作用を調べるために過渡吸収測定を実施中である。また,BI+-PhN(Ph-X)2のNフェニル上置換基(X)の影響について調査中である。空気下BIH-Arによるα-ハロケトンの酸素化反応では,BIH-ArOHに対するクロロ体とブロモ体の顕著な反応性の相違を発見した。これは,基質ケチルラジカルからのα-ハロゲン置換基のアニオン脱離能の違いが原因と考察した。次に,酸素化と還元のワンポット反応の条件検討を行い,最適還元剤としてトリフェニルホスフィンを見出し,収率向上を達成した。続いて,ワンポット反応を種々のα-ブロモカルボニル化合物へ適用した(現在,論文作成中)。また,α-ブロモ-N-スルホニルアミドのラジカル転位反応にもBIH-Arが適用できることを見出した。以上について総合的に評価した結果,(2)と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
アミノアリール置換体BI+-PhNAr2および多環アリール置換体BI+-Arについて,光触媒手法(BIH法,ヒドリド法,TEMPO法)の適用性を確立する(予備検討済み)。両光触媒に対して,2021発見の新協働物質(金属イオン,ブレンステッド酸,塩基など)および新基質(分子内ヒドロキシ活性化基質およびN-スルホニルα-アミドラジカル基質)を適用する。現在,BI+-PhNAr2の過渡吸収測定が進行中であり,さらに分子内電子移動で生じるラジカル中間体の時間分解ESR測定を行う(研究協力者)。それら過渡種と反応基質および協働物質との相互作用を明らかにする。並行して,DFT計算による電子状態および電子遷移の性質を調べる(研究協力者)。次に,BI+-Ar光触媒の過渡吸収とESR測定およびDFT計算を行う(研究協力者)。ベタイン型分子について,先行光触媒のアリールオキシド置換体BI+-ArO-の性能向上と新規光触媒の硫酸イオン置換体BI+-PhOSO3-の触媒能向上に継続して取り組む。これらは電子ドナー(D)・アクセプター(A)連結型分子であり,新たなD-A分子も開拓する。室温・空気下・非光照射下のBIH-Arによるα-ハロカルボニル化合物の脱ハロゲン・酸素化・還元のワンポット法について,論文完成のため追加実験とDFT計算(研究協力者)を行う。ベンズイミダゾリルラジカル(BI・-Ar)発生のため,BI+-Arの金属還元(Mg, Liなど)を行う。また,BIH-ArおよびBIH-ArOHによる酸素分子還元および金属酸化剤(Fe, Cuなど)との反応に取り組む。過酸化水素発生はエノンのエポキシ化により確認する。新たな共同研究として,種々のベンズイミダゾリウム(BI+-Ar,BI+-PhNR2, BI+-ArO-)の粘土上での発光挙動の調査について協議中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)2019発生の新型コロナウイルス感染症の影響は2020から2021にまで及び現在も続いている。2020は,研究活動が大幅な制限を受け(研究開始は6月,三密回避の実験活動など),関係学会は中止かオンライン開催,研究打合せなど出張等は全てキャンセルとなり,2021へ予想以上の研究費の繰越となった。2021も状況は大きく変化せず,大学院生3名(4年生未配属)のうち修士2年2名は就職活動に多くの時間を割き,通常時に比べて研究活動縮減により経費支出の大きな減額が予想された。一方,本研究課題は順調に進展し,かつ新展開の兆しも見られ,1年の研究期間延長がより適切と判断した。(使用計画)2022は代表者の在職最終年度である。研究室は修士2年1名と4年生2名であり,2021以上に小規模な陣容(大学院生減少)である。したがって,研究課題を厳選して,継続課題の発展・まとめと協力研究者への引き継ぎを念頭に新課題にも取り組む。そこで,まず消耗品費(薬品や器具など)と共通機器使用料を確保する。また,複数の実験装置・器具が老朽化しているため,不測の事態に備えて修理経費を保持しておく。成果発表のための学会参加費と論文校正料が必要である。さらに,今年度は現地開催学会,協力研究者との研究打ち合わせや学生派遣実験が可能と予想して旅費を確保する。
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