研究実績の概要 |
まず,種々のパラ置換基(Br, Me, MeO)を有するトリアリールアミン置換ベンズイミダゾリウム(BI+-PhNAr2)の吸収・発光スペクトル測定と密度汎関数理論(DFT)計算の結果から,光励起によるPhNAr2部位からBI+部位への電荷移動型遷移が示唆された。そこで,過渡吸収測定により無置換体(BI+-PhNPh2)では短寿命(1ナノ秒未満)一重項状態から,臭素置換体(BI+-PhN(PhBr)2)では三重項状態を経て,それぞれ長寿命(300マイクロ秒)電荷シフト状態(BI・-PhN+・Ar2)が生成することを明らかにした。さらに,光触媒系の協働物質(BIH-Ph,ジイソプロピルエチルアミン)や反応基質(有機スルホニル化合物)存在下での過渡吸収測定から,電荷シフト状態がBIH-Phにより拡散速度で一電子還元され生じるラジカル(BI・-PhNAr2)が還元触媒種であることを提案した。BI+-PhNAr2は新規ドナー・アクセプター連結型光触媒分子であり,初の電荷シフト状態の直接観測は,光触媒化学分野のみならず機能分子化学分野における重要な知見である。この成果は米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)に発表した。次に,多環アリール(ナフタレン,ピレン,アントラセン)置換体(BI+-Ar)とヒドリド剤の協働光触媒法(ヒドリド法)を脱スルホニル化反応に適用して有効性を実証した。また,新規な硫酸イオン置換体(BI+-PhOSO3-)をヒドリド法へ適用したところ既存のベタイン分子BI+-PhO-より有効であった。さらに,上述のBI+-PhNAr2もヒドリド法に適用可能であった。これらの成果は光化学・光生物学分野の国際誌(Journal of Photochemistry and Photobiology)に論文投稿中である。
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