1000nm付近で近赤外エキシマー発光するポルフィリンの機構解明を目指した分子の合成と、機能評価を実施した。 系統的な分子の比較検討を行うために、薗頭反応を利用した合成で不可避な副反応であるGlaser反応により、精製時の効率が大きな障害となった。この問題を解消するために反応手法の改善を検討した。アルキンのトリメチルシリル(TMS)保護基のケイ素を、シラノレートを塩基としてアミンフリー条件でシロキサンの形成を駆動力に銅に直接トランスメタル化する檜山反応型の薗頭反応手法の開発に成功した。この手法はTMS保護基を脱保護する合成ステップを省略し、かつGlaser反応を低減する点で、従来法に比べて圧倒的に優れている。 合成した芳香族スペーサーユニットを介して連結したポルフィリン二量体を合成し、溶液中での会合挙動を観察した。シクロヘキサン中での会合体形成にともない吸収・蛍光の長波長シフトした発光が観察され、基底状態における強い電子的相互作用に起因した励起子分裂が優勢であることが明らかになった。スピンコート膜における吸収・発光挙動も、多くの場合励起子分裂が優勢であり、1000 nm付近の近赤外波長域での発光が観察された分子は非常に限定的であった。この比較から得られる傾向は(1)芳香族スペーサーのサイズがコンパクトであると励起子分裂が優勢となり、エキシマー発光の長波長化はあまり顕著ではない、(2)芳香族スペーサーがポルフィリンと電子的に強くカップリングすると分子自体の吸収帯が長波長シフトし、従って励起子分裂による吸収帯の長波長化も顕著である。この際のエキシマー形成によるStokesシフトの幅を支配する因子の解明には至っていない。エキシマー形成はFrenkei型励起子と電荷移動状態の均衡によるとされ、集積構造の誘電率といった巨視的因子が効いている可能性があると考えている。
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