令和3年度は、得られたカルボニル体のホウ素原子上で炭素アニオン種による求核置換反応を試みることにより、お椀型アズレン共役分子の構築を目指した。保護基のキレート効果による配位安定化が強く、置換反応が全く進行しなかったため、加水分解による脱保護を検討した。溶媒効果の影響を受けやすく、分解反応の進行が確認されたが、種々の反応条件を試みた結果、高収率でボリン酸へ変換する条件を見い出すことができた。続いて、ホウ素上での置換反応を行うために、ボリン酸のヒドロキシ基を保護して脱離性の高い置換基に変換することを検討した。この変換で生成した保護体は、ホウ素原子のルイス酸性の増加により加水分解を受けやすくなることが予想されたため、系中で保護体に変換した後、そのまま炭素アニオン種との置換反応を行い、置換体として単離することにした。様々な炭素アニオン種との反応により置換反応の条件検討を行った結果、アニオン種を基質に対して過剰量用いることで置換生成物を与えることがわかった。また、この反応ではヒドロキシ基の変換の際に用いた塩基がホウ素に配位し、置換生成物が4配位ホウ素化合物の状態で単離されることがわかった。4配位ホウ素化合物の単結晶化とX線結晶構造解析にも成功し、ホウ素原子は四面体型構造を形成していることを確認した。炭素アニオン種との置換反応後もホウ素原子は高いルイス酸性を保持し、系中に存在する塩基の付加を受けたと考えられる。また、上記とは別のもう一つのお椀型共役アズレンとして、複数のアズレニル基を有する含ホウ素分岐型アズレンオリゴマーの合成にも成功した。以上のように、異なる2つのアズレン系π共役分子を構築し、それぞれの化合物をお椀型分子へ導くための合成ルートを切り拓いた。
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