研究課題/領域番号 |
19K05443
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
河東田 道夫 早稲田大学, 理工学術院, 客員主任研究員 (60390671)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 有機物理化学 / 計算化学シミュレーション / エラスティック有機結晶 / 有機発光材料 / 弾性特性 / メカノクロミズム / 分子間相互作用 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
林正太郎講師(防衛大学校)のグループで合成およびマクロな弾性曲げ特性の測定を行ったエラスティック有機分子結晶であるアントラセン誘導体結晶(9,10-ジブロモアントラセン)を対象に第一原理密度汎関数理論(DFT)計算に基づき結晶を曲げた際の構造をモデリングし、外力を加えた際の結晶の構造変化と相対安定性を評価するシミュレーション研究を行った。さらに、シミュレーション研究と並行して、林講師のグループにてアントラセン誘導体結晶の弾性特性の精密測定を行う実験装置を構築し測定を実施する共同研究を行った。シミュレーション結果と測定結果を比較し弾性特性のメカニズムの詳細な評価を行った。 具体的な研究成果として、9,10-ジブロモアントラセンの結晶軸の各軸方向に外力を掛けたシミュレーションと結晶を伸縮させた際のX線回折実験と実施し、結晶構造とエネルギー変化を詳細に調べた結果、特にa軸方向に結晶構造が柔軟に変化すると共にa軸の伸長に伴いb軸長とc軸長が連動して減少する異方的な結晶変形機構が明らかとなった。さらに、シミュレーション結果の構造を詳細に調べた結果、分子の回転を伴うスリップスタッキング構造変化が異方的な大変形の要因となることが明らかとなった。さらに、分子間の各原子間距離を調べたところ、a軸伸長に伴い、c軸方向の分子配列に関わるCH-π相互作用からBr-π相互作用にスイッチするような相互作用変化が確認され、分子の回転を伴うスリップスタッキング構造変化はこの相互作用変化に起因することが明らかとなった。またその際に、アントラセン分子が平面的に滑る構造変化をすることに伴い、π軌道性をもつHOMO、LUMOの重なりが変化することにより発光色が変化する機構が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画で立案したエラスティック有機分子結晶のシミュレーションと実験による弾性機構解明の研究については、林講師のグループとの共同研究を計画通りに遂行することができ、マクロな物性である弾性機構をミクロな原子・分子間相互作用の描像で機構を解明することに成功し、研究成果の論文発表を行うことができた。研究が順調に進んでいるため、当初の計画にはないアントラセン誘導体以外のエラスティック有機分子結晶の弾性特性についても共同研究に着手しシミュレーションと実験を進めることができた。 また、来年度後半以降から開始する計画を立てている、エラスティック有機分子結晶の合理的な分子デザイン方法の確立とその応用による新しい結晶材料の創生についても、過去の新学術領域「π造形科学」にて開発した分子結晶材料全自動探索システムの改良として、シミュレーション手法の改良やコード整備に着手するなどの研究準備を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度後期から共同研究に着手したアントラセン誘導体以外のエラスティック有機分子結晶の弾性特性についてのシミュレーション研究と実験研究については、林講師のグループと定期的に議論しながら共同研究を進める。 エラスティック有機分子結晶の合理的な分子デザイン方法の確立については、昨年度の成果と今年度に進める研究により解明された分子間相互作用の描像の違いによる弾性機構を系統的に整理した上で、合理的デザイン方法を検討し新奇エラスティック有機分子結晶を創生するためのシミュレーションと実験を進める。 また、合理的デザイン方法の検討と並行して、未知分子材料探索のために自動探索シミュレーションを活用するため、シミュレーション手法の改良と実装を進め課題となっている結晶構造予測精度の向上を行う。また、自動探索シミュレーションの高速化や弾性機構の定量的な系統的分類を実現するため、機械学習モデル活用の検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴う緊急事態宣言により予定していた国内学会出張をキャンセルしたため、当初予算計画に入れていた旅費と学会参加費分が未使用となり次年度使用額が生じた。 使用計画として、研究が順調に進んでいるのに伴い申請当初計画していなかったシミュレーション実施のための大型計算機利用費に充てる予定である。
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