研究課題/領域番号 |
19K05446
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
岩永 哲夫 岡山理科大学, 理学部, 准教授 (40454805)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | パイ共役系 / 多環式芳香族化合物 / 酸化的環化反応 / 電子スペクトル / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
本研究では,フレキシブルな含窒素パイ共役系化合物に対して酸化的環化反応を適用し,その反応性を巧みに操ることで,新奇な分子構造や電子特性を持つ含窒素拡張パイ共役系を自在に合成することを目的とする. 今年度は,昨年度に引き続き2つのカルバゾールの3位を窒素原子により架橋したカルバゾール二量体を前駆体として,種々の酸化剤を用いて酸化的環化反応の検討を行った.前駆体は架橋している窒素とカルバゾール間で自由回転できるため,酸化的環化反応を適用すると様々な構造異性体が生成すると予想される. はじめに前駆体カルバゾール二量体に対して,DDQの当量を固定してメタンスルホン酸を用いた条件で酸化的環化反応を検討した.メタンスルホン酸の添加量が少ない場合は反応が進行しなかったが,酸の当量を増やすに従ってヘリセン構造を有する縮環体が形成することを見出した.またメタンスルホン酸を過剰に加えたところ,カルバゾールの2,4位間で縮環したL字型の生成物が選択的に確認できた.昨年度行ったトリフルオロ酢酸を用いたときの結果と比較し,対アニオンの種類によらずプロトン酸の濃度が反応系中で上昇すると,2,4-縮環体が優先的に形成することがわかった.また得られた2,4-縮環体の生成機構について,DFT計算により検討した結果,一般的に提唱されているラジカルカチオンやアレニウムカチオン経由ではなく,ジカチオン種を経由した反応経路であることを見出した. カルバゾール以外の芳香族ユニットを導入した前駆体の合成にも着手し,これまでに検討したDDQ/H+系の酸化的環化反応の条件を適用したところ,当初予想していなかった分子間で反応して高い対称性を有する生成物を得ることができた.現在,得られた化合物を精製し,X線結晶構造解析やNMRなどを利用して,構造の同定を進めているところである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目は昨年度に使用した前駆体を用いて,1年目に引き続きDDQを酸化剤に用いた酸化的環化反応の条件検討を進めた.添加するプロトン酸としてメタンスルホン酸を用いて,その当量を変えることで縮環位置が異なる誘導体の合成に成功した.一方,プロトン酸以外を利用する反応条件の検討も進めており,縮環する位置が異なる誘導体を自在に合成できる条件を最適化しつつある.副生成物を含めて,得られた縮環体はX線単結晶構造解析により構造を同定し,母骨格の構造や興味深いパッキングを確認できた.また物性評価として電子スペクトルや酸化還元電位の測定も進めており,DFT計算の結果と比較することで,電子状態の解明を進めている.またカルバゾール以外のパイ共役ユニットを有する前駆体に対して酸化的環化反応を利用すると,予期しなかった対象性が高い構造体が生成していることが確認でき,詳細な構造の解明を進めている. 以上のことにより,2年目の本研究課題の進捗状況は概ね順調である.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は,新たな拡張パイ共役系を構築するために,アントラセンを導入した前駆体を利用して,酸化的環化反応の条件検討をすすめる.酸化剤の検討は,これまでに培ったデータをもとに進め,添加する酸の種類を変更することで,縮環する位置が異なる誘導体の合成を試みる.さまざまな芳香族ユニットを組み込んだ誘導体を用いることで本反応の汎用性を高められるように研究を進める.カルバゾール誘導体への酸化的環化反応の適用では,生成する化合物の選択性が見出せつつある.引き続き,種々の構造を高選択的に合成する手法の開発を進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度はコロナ禍により参加予定の学会が中止やオンライン開催となり,旅費や学会参加費などの経費が予定より減額になったことや,研究室での活動が制限される時期があり日々の研究が進められなかったこと,流通の都合で必要な試薬が入手できないことがあり,一部繰越金が発生した.今年度は感染予防を徹底して,研究活動に支障がでないように運営する予定であり,課題遂行を精力的に進める. 次年度予算は,基本的にはこれまでと同様の合成実験を主体として進めるため,有機試薬,超脱水溶媒,精製溶媒,金属触媒,ガラス器具などを購入するために,物品費として大きな割合で計上している.また研究課題に関連する成果発表を積極的に行うため,研究代表者と研究協力者の学会参加費やコロナ禍であるがハイブリッド開催などの学会への出張旅費を計上し,論文発表に関わる英文校閲を行うために使用する.
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