研究課題/領域番号 |
19K05447
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
山口 健太郎 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (50159208)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 共結晶 / ホストーゲスト相互作用 / レーザー脱離イオン化質量分析 / 単結晶X線構造解析 |
研究実績の概要 |
細孔性錯体である結晶スポンジの内部に種々のbenzodioxole誘導体および環状分子を取り込みX線解析を行なってホスト分子の結晶スポンジ内での精密な配置を特定した.一方,これらゲスト分子を取り込み,X線解析を実施た同じ結晶にレーザー光を照射してイオン化するレーザー脱離イオン化質量分析を行なった.その結果をもとに質量スペクトルを精査し,詳しい構造解析を実施するとともに,どのような場合に効率的にイオン化が進行するか検討した.X線解析よりホスト分子が吸収したレザーエネルギーをホスト分子に受け渡す過程を推測し,計算化学的手法を用いてエネルギーの流れを解析した.この結果,ホスト分子とゲスト分子の相対配置がイオン生成に極めて重要であることがわかった.現在,精度の高い分子軌道計算により精査中である.この結果はMALDIイオン化機構の解明につながる可能性がある. 共結晶化有機分子の創製に関し,空孔を備えた新規環状化合物の創製に着手し,いくつかの共結晶化能を備えたアダマンタン誘導体を合成してきた.この中でテトラジンを導入した環状ホスト分子が低分子有機化合部と共結晶を作ることを見出した.中でも,従来困難であった鎖状アルコール類の当該手法による構造決定に成功したことは前年度報告した.今年度は,アダマンタン環状ホスト分子中のテトラジン架橋構造をピラジンに変えた新規環状ホストの合成に成功し,これを用いたハロゲン溶媒分子の取り込みについて検討した.その結果,溶媒分子の特性に応じて結晶構造が変化し,ハロゲン相互作用によるホスト-ゲスト共結晶の構造を精査することができた.このことは,医薬品の共結晶体の形成に基づくホスト-ゲスト間相互作用を分子レベルで解明する可能性を示している.今後,種々の医薬品につて共結晶を作成し,相互作用解析に取り組んで行く予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,共結晶化技術を構造解析に応用することを目的の一つとしており,レーザー脱離イオン化質量分析および単結晶X線構造解析等を活用しこれを達成しようとするのものである.結晶スポンジを用いたレーザー脱離イオン化質量分析についてはすでに種々の例を示すに至った.さらに,イオン化機構の解明に取り組むべく,X線解析の結果と計算化学的手法を駆使して鋭意努力中であり,当初の計画に概ね沿っていると考えている.当該年度中にすでに研究が進められているジフェニレン類を包接した結晶スポンジのレーザー脱離イオン化質量分析に関する研究を完了し,専門誌に発表した.ジフェニレン類は結晶スポンジに効率的に取り込まれ,また,容易にレイザー脱離イオン化が進行する.二重結合の数とイオン化効率の関連や結晶スポンジ内の相対配置との関連について精査することができた. 本研究では更に低分子医薬品を包接する新規環状ホスト分子を合成し,従来の結晶スポンジの欠点を克服する新しい共結晶化分子の作成に取り組む計画を立てた.これについても新規アダマンタンを含む環状ホスト分子の合成を達成し,ゲストの取り込みにも成功しているため,本研究が計画通り進行していると言える.すなわち本年度新たにアダマンタン環状分子にベンゾフェノンテトラカルボン酸イミド類を含めた新規ホスト分子を合成し,このホストに環状エーテル分子(ゲスト)を包接させた共結晶のX線解析に成功している.更にピラジンを含むアダマンタン環状ホスト分子の合成にも成功した.
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今後の研究の推進方策 |
結晶スポンジにゲスト分子を取り込み,X線解析と同時に、この結晶によるレーザー脱離イオン化質量分析(CSLDI/MS)を行う手法は独自のものであり,共結晶を利用した新しい構造分離分析法の確立を目指す本研究の独創的側面である.この手法によりCS-LDIのイオン化機構解明に向けた取り組みとして種々のホスト分子に対するゲスト分子の取り込みとイオン化について考察する必要がある.このため,当該研究において新規アダマンタン環状ホスト分子を合成してきた.今後,更にホスト分子の種類を増やしてイオン化との関連を検討する. 本研究は共結晶化を不安定分子の構造解析に応用すること,およびこれらのホスト-ゲスト相互作用に基づく選択的包接能を利用した分離技術への応用を当初より計画している.共結晶化を活用する分離分析の面からは,ホスト分子が必ずしも共有結合による環状構造である必要はない.我々はすでにV型で配向性の強い非環状アダマンタン分子の2量体環状複合体超分子がゲスト分子であるパラキシレンの形を認識して共結晶を形成し,他の異性体や類似構造体が溶液中に共存しても選択的にパラキシレンのみが分離されるということが明らかにしている.これを発展させ,より高効率な分離用のホスト分子の創製も同時に目指す.更に今後は,レーザー脱離イオン化質量分析を本研究において合成したゲスト分子を包接する新規アダマンタン環状分子にも適用し,当初の課題であ共結晶化による構造分離分析を達成する計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた学会発表や調査等に係る出張が,コロナ禍で中止または延期となったため出張費が未使用となった.実験も遅れ気味となり,消耗品費等の購入が遅れた. 今年度に持ち越した有機合成実験等に用いる試薬,溶媒およびガラス器具類を購入する計画である.また,最終年度であるため,研究成果の発表にともなう出張費としても使用する.
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