2021年度は、置換オルトナフトキノン類の光酸化還元反応の開発と立体特異的な光酸化還元反応を活用したプレウソメリン類合成経路の改良に取り組んだ。 我々は、オルトナフトキノン類においても光酸化還元反応が進行することを報告している。今回その適用限界を調査すべく、オルトナフトキノンに多数のアルコキシ基が導入された基質について光反応が進行するか検討した。その結果、複数のアルコキシ基を有する基質については、反応が進行しないことが明らかとなった。基質の紫外可視吸収スペクトルを測定すると、これまで反応が進行したナフトキノン類よりも超波長側に吸収を持つことが分かった。本結果は、光反応を適用する基質の分子設計について指針を与えるものである。 昨年度にプレウソメリンEG3の不斉全合成を達成したものの、いくつか低収率の段階があり、他の誘導体合成へは展開できていなかった。そこで、低収率の各段階について検討を行った。その結果、キノンへの酸化反応と分子内レドックス反応について収率を改善することができた。特に、後半の分子内レドックス反応においては、反応条件を精査することによって2倍以上の収率改善を実現した(30%→80%)。これにより、他の誘導体合成への展開が可能となり、プレウソメリンEG1とEG2の初の不斉全合成を達成することに成功した。また、合成した天然物をX線結晶構造解析することにより、その絶対および相対立体化学について独自に確認し、報告されていた化学構造が正しいことを確認した。一方、合成品の比旋光度の絶対値は報告値と大きく異なっていた。これは、天然から単離されたサンプル標品の鏡像体過剰率が低い、もしくは、その純度や測定に何かしらの不備があることを示唆する結果である。
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