研究課題/領域番号 |
19K05454
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
菅 博幸 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (60211299)
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研究分担者 |
戸田 泰徳 信州大学, 学術研究院工学系, 助教 (60758978)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カルボニルイリド / ハイブリッド触媒 / 不斉付加環化 / 不斉プロトン化 / 計算化学 / 遷移状態 |
研究実績の概要 |
「ロジウム錯体/キラルルイス酸」ハイブリッド触媒系の新規な展開の1つとして、N-(α-ジアゾカルボニル)オキサゾリジノンから発生させた環状カルボニルイリドへのアルコールの付加反応において、キラルルイス酸の添加により、良好なエナンチオ選択性でアルコールがシス付加した二環式化合物が得られることを見出している。反応機構に関する知見を得る目的で、DFT計算により遷移状態の構造およびエネルギーを求め考察した。ルイス酸非存在下では、アルコールが2分子関与した協奏的機構が最もエネルギー的に有利であった。そこで、この計算結果に基づいて、過塩素酸亜鉛をアルコールに配位させた場合とカルボニルイリドに配位させた場合の活性化について、遷移状態を求めエネルギーを比較した。過塩素酸亜鉛がアルコールに配位し、カルボニルイリドへのプロトン化を活性化することで、プロトン化中間体を生成した後、プロトン化と同じ面からもう一分子のアルコールが付加する段階的な機構がエネルギー的に有利であることを明らかにした。 鎖状カルボニルイリドの不斉付加環化反応の開発に関する検討では、ジアゾマロン酸ジエチルとベンズアルデヒドより、ロジウム触媒により発生させた鎖状カルボニルイリドとベンズアルデヒドを親双極子剤とする付加環化をキラルルイス酸存在下に検討した。この系では、対応するジオキソランがシスおよびトランスのジアステレオマー混合物として得られ、望むような不斉誘起は観測されなかった。一方、鎖状カルボニルイリドの前駆体として対応するエポキシドを用いた場合には、ベンズアルデヒドとの付加環化において、シス体のみが得られた。また、アセチル基を2つ有する誘導体を前駆体として、キラルなビナフチルジイミン配位子と過塩素酸ニッケルより調製したルイス酸を用いると、94% eeのエナンチオ選択性でcis-ジオキソランが選択的に得られることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「ロジウム錯体/キラルルイス酸」ハイブリッド触媒系開発の研究計画として、環状アゾメチンイリドの不斉付加環化反応の開発を1つのテーマとして挙げおり、すでに、N-アクリロイルピラゾリジノン誘導体を親双極子剤として用い、ロジウム錯体およびキラルルイス酸の2成分触媒存在下に反応させると、高エナンチオ立体選択的(97% ee)に付加体が得られることを見出している。2019年度の研究計画では、その基質一般性を検討する予定であった。2019年度の本研究課題への着手時期には、実行可能な基質一般性に関する検討はほぼ終えており、この研究テーマに関しては、学術論文(Chem. Commun., 2019, 55, 1552)に掲載済である。 また、反応形式の拡充として、環状カルボニルイリドへの不斉アルコール付加反応の開発を2つ目のテーマとしており、基質一般性の検討とDFT法による遷移状態の計算を行い、反応機構の解明を予定していた。現在、実行可能な基質一般性に関する検討はほぼ終えており、DFT計算の結果、アルコールが2分子関与した反応において、ルイス酸がアルコールに配位し、カルボニルイリドへのプロトン化を活性化することで反応を促進する機構が有利であることを明らかにしている。しかし、キラルルイス酸による不斉誘起のメカニズムに関する計算には至っていない。 3つ目の研究テーマである鎖状カルボニルイリドの不斉付加環化反応の開発に関しては、2019年度の検討において「ロジウム錯体/キラルルイス酸」ハイブリッド触媒系では、満足できるレベルの不斉誘起の達成には至らなかった。一方、鎖状カルボニルイリドの前駆体として対応するエポキシドを用いた場合には、キラルルイス酸を触媒とするベンズアルデヒドとの付加環化において、高エナンチオ選択的かつシス選択的に付加環化体が得られることを見出しており、今後の成果が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
「ロジウム錯体/キラルルイス酸」ハイブリッド触媒系における2つ目のテーマである環状カルボニルイリドへの不斉アルコール付加反応の開発においては、DFT計算を行った結果、ルイス酸がアルコールに配位し、カルボニルイリドへのプロトン化を活性化することで反応を促進する機構が有利であることを明らかにしている。この反応形式は、不斉反応という観点では、エナンチオ選択的なプロトン化反応に対応することから、このような観点において研究成果をまとめ公表したいと考えている。 「ロジウム錯体/キラルルイス酸」ハイブリッド触媒系の展開という観点では、鎖状カルボニルイリドの不斉付加環化反応の開発には、成功していない。しかし、鎖状カルボニルイリドの前駆体として対応するエポキシドを用いた場合とハイブリッド触媒系でのジアゾマロン酸ジエチルとベンズアルデヒドより発生させた鎖状カルボニルイリドとベンズアルデヒドとの付加環化反応には、エナンチオ選択性のみならず、ジアステレオ選択性にも大きな違いがあり、化学種としての鎖状カルボニルイリドに違いがあるのではないかと考えられる。この違いを明確にする目的で、反応機構の解明も含め、基質一般性とともに検討を進めていきたい。 また、予備的な検討において、エポキシドを前駆体とする鎖状カルボニルイリドとインドール誘導体との付加環化反応をキラルルイス酸存在下に行うと、80% ee程度のエナンチオ選択性を示すことも明らかにしており、更なる選択性の向上と基質一般性の拡充についての検討も行っていく予定である。
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