本研究課題では、バイオディーゼルの普及に伴い派生したグリセリンの余剰問題を解決するために、グリセリンから医薬品や液晶の重要な原料となる光学活性グリシジルスルホネートへの変換法、グリセリン酸への酸化法、グリセロリン酸を始めとするレシチンやセラミド機能物質への変換法の確立を目指している。グリセリンをこの様な化合物にごく少量の触媒を用いて不斉変換できれば価値が高いが、その3つの水酸基を不斉識別して反応させることは大変難しい。我々はこれまでにジオールの水酸基をルイス酸により活性化すれば一方の水酸基のみを容易に後続反応できること、ここにキラルルイス酸を用いれば光学活性化合物が得られることを報告している。本研究課題に於いては、この手法を2位置換グリセリンに適用し、不斉モノスルホニル化により有用なC3キラル合成素子に変換できること、様々な置換基を有する光学活性グリセリン酸に不斉酸化できること、不斉ホスフィネート化により光学活性グリセロリン酸に誘導できることを見出した。特に不斉酸化に有効な配位子の構造最適化に成功し、いずれの反応も高収率、高エナンチオ選択的に進行するよう反応条件を改善できた。加えて、グリセリンの類縁体である2-アミノ-1,3-プロパンジオールの不斉非対称化による2-ヒドロキシメチルアジリジン合成への変換手法も見出せた。このアジリジンの求核的開環反応、2位ヒドロキシメチル基のアルデヒドやエステルへの選択的酸化を可能とする反応条件も最適化できた。2-アミノ-1,3-プロパンジオールの不斉非対称化についても、同様な不斉酸化を達成した。本課題は最終年度を終えたが、いずれの成果も創薬研究や化学品合成において有用な知見であるので、医薬や化学業界とマッチングを図っていく。
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