研究実績の概要 |
含窒素スピロ環骨格をもつ天然物群には、有益な生物機能をもつ化合物が数多く存在し、創薬分野の新規シード分子として期待できる。しかしながら、含窒素スピロ環を効率的に構築する有機合成的手法は限られており、特に光学活性体を量的に供給する際は多工程の変換を必要とする場合が多い。従って、標的とする含窒素スピロ環を、供給容易な鎖状分子を原料として、ワンステップで不斉合成する反応を開発することは、大変意義深い。令和 3 年度において、含窒素スピロ環天然物の新規合成法の確立を目指し、まずはヒストリオニコトキシン類を合成した。研究代表者は、開発した環化異性化反応を含窒素 6,6-スピロ環構築へと拡充し、直鎖分子から一挙にカエル毒骨格を一挙構築した。合成した含窒素スピロ環から、ヒストリオニコトキシン類の類縁体であるヒストリオニコトキシン 235A へと誘導するラセミ体合成法を確立した。また含窒素 5,6-スピロ環構築反応を、フグ毒テトロドトキシンの骨格構築法にも応用することで、水酸基が複数欠損した非天然類縁体 11-<i>nor</i>-6,7,8-トリデオキシテトロドトキシンのラセミ体合成も達成した。さらに、鍵となる上記環化反応を 『 不斉 』 化することで、標的物の光学活性体を得ることについても、昨年度に引き続き取り組んだ。合成した鎖状分子について水銀トリフラート触媒と、独自に調整した様々な光学活性ウレア化合物を組み合わせて、環化反応の不斉化を検討した。得られたスピロ環生成物をキラル HPLC で分析した結果、エナンチオ選択性 ( er ) は 55:45 程度ではあるが、鏡像体の生成割合に偏りが見られた。本成果は、用いるキラルリガンドの範囲を拡大することで、er が向上する可能性があることを示し、今後の高エナンチオ選択的な不斉環化反応の確立に向けた、足掛かりとなる重大な研究成果である。
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