研究課題/領域番号 |
19K05464
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
山中 正浩 立教大学, 理学部, 教授 (60343167)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子触媒設計 / DFT計算 / 不斉合成 / 分子認識 |
研究実績の概要 |
複数の官能基(反応サイト)を同一分子内に有する複雑化合物に対して、反応性の類似した官能基を識別して化学変換することは、合成化学分野における挑戦的課題の一つである。本研究では、一般に官能基の反応性の違いに支配されることが多いサイト選択性を、立体選択性とも併せて制御することが可能な分子触媒の開発を目的とする。具体的には、基質の活性化から様々な化学変換までを実現するルイス酸・金属触媒部位に対して、複数の水素結合や分散力を介して分子認識やサイト選択性を制御する有機分子触媒部位を付与することにより、「立体選択的・サイト選択的分子触媒」を実現する。2つの異なる特色をもった分子触媒を融合させ、合理的に「立体選択的・サイト選択的分子触媒」を開発するため、近年の計算機や計算手法の進展を鑑みて理論計算を先導的に活用する。本年度は、上記の設計概念に基づく分子触媒を提供する新規不斉配位子の設計と合成を行った。即ち、金属触媒部位として機能するビピリジンやビナフチルジアミンを母骨格として、アミノ酸より誘導される水素結合供与部位を導入した新規不斉配位子を合成した。特にビピリジン型不斉配位子は、柔軟なキラル側鎖と複数の水素結合供与部位を有しており、外部環境への応答性を指向した分子設計となっている。さらに、それらのプローブ反応として、銅触媒によるα,β-不飽和カルボニル化合物の不斉ホウ素化反応や鉄触媒によるニトロンとα-ケトエステルの不斉1,3-双極子付加環化反応を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、新規不斉配位子を合成し、「立体選択的・サイト選択的分子触媒」の開発に向けて一定の触媒設計指針を定めることができた。即ち、多様な化学変換を実現する金属触媒部位として機能するビピリジン骨格やビナフチルジアミン骨格に対して、アミノ酸より誘導される水素結合供与部位を導入した新規不斉配位子を設計・合成した。アミノ酸より誘導される側鎖は、分子認識能・サイト選択能を付与することが期待できる。実際に、中心金属として銅や鉄を用いた際に、α,β-不飽和カルボニル化合物の不斉ホウ素化反応やニトロンとα-ケトエステルの不斉1,3-双極子付加環化反応に対して不斉触媒能を示すことを見出しており、良好なエナンチオ選択性が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、合成した新規不斉配位子に対して中心金属として銅や鉄を用いた際に、α,β-不飽和カルボニル化合物の不斉ホウ素化反応やニトロンとα-ケトエステルの不斉1,3-双極子付加環化反応が良好なエナンチオ選択性で進行することを見出した。しかしながら、さらにエナンチオ選択性を向上させる余地がまだ残されている。今後は、立体制御能をより先鋭化させる。さらにサイト選択性の制御に向けた展開を指向して、特に新規不斉配位子のアミノ酸誘導体部分を中心に網羅的な探索を行う。また、実験的に得られた置換基効果に基づいてGRRM/AFIR計算やDFT計算を行い、触媒機能を解明するとともに得られた知見を触媒設計へとフィードバックしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 物品費のほとんどは、本研究に関わる試薬類やガラス器具類の購入に充てられているが、研究進捗の都合上、現有の計算機を用いて新規な分子触媒設計のための計算研究にも多くの時間を費やしたため、相対的に実験研究に使われる試薬類やガラス器具類の購入が抑えられる結果となった。 (使用計画) 基本的には本研究に関わる試薬類やガラス器具類の購入に充てる予定であるが、記入している2020年5月の段階では、新型コロナウィルス対応により研究施設が使用できない状況にあるため、本研究に関わる理論計算・計算結果の解析を進めるためのPCなどの購入に充てることもあり得る。
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