アルキンは,間伐材からコークスを経て合成可能であり,生産に関わる電力量など解決すべき問題があるものの社会の持続性を考慮すると,利用法の拡充は重要な課題であると考えて本研究を実施した。 従前に,末端アルキンから1工程にて合成されるアルキニルハライドにて,ハロゲンが電子吸引性基として機能してマイケル付加型の共役付加反応が進行することを見出しており,求核付加段階にて過渡的に生じていると最近の検討結果から示唆されたアルキリデンカルベノイドの利用を主軸に据えて,分子変換法の開発に取り組んだ結果,以下の成果を得た。 1)マイケル付加反応とカルベノイドの発生・利用を段階的に行うことで,置換インドールの新規合成法を開発した。すなわち,マイケル付加反応にて発生した不安定化学種であるカルベノイドを,一旦,プロトン化体として単離した後に改めて塩基にてアルキリデンカルベンを発生させたところ,隣接する不活性結合にカルベンが効率的に挿入することを見出した。 2)アルキニルハライドと亜リン酸トリエチルから,ホスホリル基,エチル基,ハロゲンが置換したオレフィンを幾何配置選択的に合成できることを見出した。なお,アルキニルハライドやアルキリデンカルベノイドの反応性に基づいてArbuzov-Michaelis反応を拡張させた成果とも見れる。 3)アルキニルハライドに対するマイケル付加反応の生成物に,改めて触媒量のアルキニルハライドと塩基を作用させるとオレフィンの幾何異性が反転することを見出した。この反応は,アルキニルハライドがハロニウム源として機能し,連鎖的にビニルアニオンが次々に異性化した結果である。奥彬先生が1985年に報告した連鎖反応を異性化に発展させたとも見れる。 以上,本研究では新たなマイケル付加反応をプラットフォームとして,医薬分子合成など精密有機化学分野における分子調達の選択肢を拡充させる成果を得た。
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