近年、これまでは無機材料が主流であった半導体や太陽電池の分野において、有機材料を活物質に用いた有機電界効果トランジスタや有機太陽電池が広く注目を集め、これらのデバイスを指向した新規π電子系有機化合物の合成及び物性が相次いで報告されている。例えば、有機電界効果トランジスタは軽量、安価かつ曲げ耐性が期待できるので、無機トランジスタを有機電界効果トランジスタに代替することがで、安価・軽量かつ曲げて持ち運べる有機デバイスの作成が可能となる。 その活物質として特に最近注目されるのが、炭化水素骨格に硫黄原子を導入したチエノアセン類である。これまでにも種々の優れた有機半導体が開発されているが、それでもこれら有機半導体の移動度は無機半導体に比べればまだ低く、より優れた有機半導体材料の開発が強く望まれている。チエノアセン類はその構造によって著しく移動度が変化することがわかっており、近年様々な新規チエノアセン類報告されているが、チエノアセン類にさらに異なるヘテロ原子を置換・導入したヘテロチエノアセン類の研究はまだ報告例が少なく、窒素や酸素、硫黄といったヘテロ原子を組み込んだヘテロチエノアセンを効率よく合成する手法の開発が望まれている。本研究では効率的な新規多環チエノアセン類を合成する手法として、ヘテロ架橋構造の構築とC-H結合活性化反応により、効率的に構築する方法を開発をめざした。 実際に新規ヘテロ架橋体のための前駆体を新たに合成法を確立するとともに、種々の新規ヘテロ架橋体の合成に成功した。現在、得られた種々の架橋体の環化反応に取り組んでいる。また、遷移金属触媒を用いた新規炭素ー酸素結合、炭素ー硫黄結合形成反応を開発し、これらの反応を経る新規チエノアセン類の合成も達成した。また、高価で希少な遷移金属触媒を用いることなく、電気化学的に炭素ー硫黄結合を形成してチエノアセン類を合成する手法も見いだした。
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