研究課題/領域番号 |
19K05479
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
上野 雅晴 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 講師 (80361509)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ワンポット反応 / タンデム反応 / カップリング反応 / 機能性材料 / ポリアリール / Riccardin C / グリーンケミストリー |
研究実績の概要 |
多置換ポリアリール化合物は、医薬品中間体をはじめ高分子前駆体や液晶といった機能性材料として用いられている化合物群である。研究室レベルでこの多置換ポリアリール化合物を合成する手法として、遷移金属触媒を用いるカップリング反応を組み合わせる方法が最も一般的であるが、触媒として主にパラジウム触媒といった高価な触媒を必要とするなど課題となる点も多い。複数のユニットを連結する場合には、各段階で触媒が必要となる上、反応終了後に分液・精製の操作を行なう必要があるなど極めて非効率である。そこで今回申請者は、フロー連続合成に適したカプセル型触媒を新たに開発、基質を段階的に加えていくことで、多成分からなるカップリング反応を一挙に進行させ、複雑な機能性分子を効率的かつ網羅的に合成する新手法を開発することを着想した。 今年度は第一、第二成分のカップリング反応を行なった後、途中で反応を停止させること無く、第三の成分を投入することで連続的な多成分カップリング反応を行い、ライブラリー構築への展開を検討した。その結果、「薗頭カップリング反応」と「鈴木-宮浦カップリング反応」をワンポットタンデム反応は10例(最高収率89%)で目的とする3成分連結体を得ることに成功した。本反応の場合、溶媒として水のみを用いる有機溶媒フリーでの反応にも合わせて達成した。また、「薗頭カップリング反応」に代わり「溝呂木-Heck反応」への展開も併せて行なった。 また、本研究課題の具体的な応用展開例として多成分カップリング反応を鍵反応とする機能性分子ライブラリーを開発することを目的とし、抗腫瘍活性化合物riccardin Cの骨格合成を検討した。対応する4つのユニットを別途合成し、ワンポットタンデムカップリングに付したところ、収率は低いものの目的物が単一の化合物として得られることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はサブテーマとして掲げた「効率的なワンポット多成分カップリングの開発」、及び「多成分カップリング反応を鍵段階とする機能性分子ライブラリーの開発」を手がけ、本研究課題で計画している内容に関し概ね順調に進展していると言える。特に「薗頭カップリング反応」と「鈴木-宮浦カップリング反応」のタンデムワンポット合成のみならず、「溝呂木-Heck反応」と「鈴木-宮浦カップリング反応」の組み合わせにも展開出来たのは、計画以上の成果といえる。 更に、抗腫瘍活性化合物riccardin Cの骨格合成に関しては、4つのユニットを「薗頭カップリング反応」2回分「鈴木-宮浦カップリング反応」1回分をワンポットで一挙に繋ぎ合わせるという野心的な試みであったが、組成が同じなため分離困難だと予想される「望まない組み合わせ」の生成物を得る事なく目的物を合成できた事は、本手法が機能性分子ライブラリーの構築に極めて有力なツールとなる事を示すものである。 また、触媒として用いる貴金属の低減化のみならず、化学界に望まれるよりグリーンケミストリーの実践的なアプローチとして、反応に有機溶媒を用いない事を積極的に展開している。本研究課題でも「薗頭カップリング反応」と「鈴木-宮浦カップリング反応」とのタンデムカップリングにおいて、有機溶媒フリーの条件を達成することが出来た。今後、他の反応との組み合わせにも積極的に展開する過程で、極力有機溶媒を用いないプロセスに展開出来ないか常に意識しながら検討していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
先に示した結果を踏まえ、より積極的な展開を行うと共に、本年度取り組んでいないもう一つのサブテーマである「固定化カプセル型触媒の開発およびフロー反応系への展開」を先ずは検討する予定である。これまで多くのカップリング反応を実現する固定化触媒が開発されてきているが、活性の低下や金属の漏れ出し等解決すべき問題点がある。今回、フロー合成に応用が可能な固定化触媒の創成を検討する上で、筆者は今回「Egg yolk type catalyst」の開発検討し解決を図る。これは、触媒を卵の黄身に見立て、触媒が外に漏れ出さない様に多孔質の殻で包んだイメージであり、シリカやアルミナと言った基剤の表面に触媒を固定化しただけの、従来型固定化触媒が潜在的に持つ金属の漏れ出しを、根本的に防ぐことができると考えている。また、殻となる多孔質内に止まることのできる触媒であれば、分子触媒でもオリジナルの触媒活性を維持しつつ、漏れ出すこと無く擬似的に固定化できるため、フロー合成への応用へも容易に行なえるのではと期待している。 また、本年度は「薗頭カップリング反応」と「鈴木-宮浦カップリング反応」とのタンデムカップリングにおいて、有機溶媒フリーの条件を達成することが出来たが、化学界に望まれるよりグリーンケミストリーの実践的なアプローチとして、今後単離・精製過程でも有機溶媒を用いない手法に展開してく予定である。 成分カップリング反応を鍵段階とする抗腫瘍活性化合物riccardin Cの骨格合成は一応成功しているものの、その週率はまだまだ低い物なので、その改善を図ると共に、全合成自体も単離・精製過程をなるべく省いた小ポット合成に展開していきたい。また、他の機能性材料の効率的合成にも積極的に展開していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に参加を予定していた学会発表(日本化学会第100春季年会)の開催が中止(講演登録はしたため学会発表扱い)となり、執行予定であったその分の旅費が未執行となっている。研究は概ね計画通りに進捗しているので、次年度において追加の試薬購入代金(物品費)に充てる予定である。
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備考 |
研究室を含めた科学講座のHPは https://web.ias.tokushima-u.ac.jp/ac-lab/index.html
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