研究課題/領域番号 |
19K05485
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
柴田 高範 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80265735)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脱水素型Diels-Alder反応 / 縮合多環式化合物 / 協奏的反応機構 |
研究実績の概要 |
通常のDiels-Alder(DA)反応より4つ水素が少ないアルキンとエンインのDiels-Alderは、tetradehydro Diels-Alder(TDDA)反応とよばれ、不安定な環状アレン中間体を経て、ベンゼン環を構築する。報告者は、2つの硫黄原子により架橋された1,3-ジイン部分を含むテトラインを加熱すると、アルキンとアリールアルキン部分をエンインとする連続的TDDA反応が進行し、軸不斉ビス(ジベンゾチオフェン)誘導体が得られることを見出した。さらに、2段階目のTDDA反応においてキラルロジウム触媒を用いることで、過去に例がない触媒的かつエナンチオ選択的TDDA反応を達成した。 今回、硫黄原子をケイ素原子に替えたテトラインを150 ℃に加熱したところ、1段階目で、1,3-ジイン部分とアルキン部分のhexadehydro Diels-Alder(HDDA)反応が進行し、系中で生成したベンザインと未反応のアリールアルキン部分でTDDA反応が進行し、ケイ素を含んだ新規な縮合多環式化合物が得られた。 そこで、ケイ素架橋テトラインの反応機構を計算化学により解析した。簡略化のためトリインをモデル基質としてDFT 計算を行った。まずジラジカル中間体を経由する機構で遷移状態のエネルギー計算を行った結果、HDDA反応より、TDDA 反応が有利となり、実験結果と異なった。そこで次に、協奏的な機構で計算を実施した結果、HDDA反応、TDDA 反応いずれの遷移状態エネルギーも低下し、特にHDDA 反応が、より低い結果であった。以上より、ケイ素架橋された基質では協奏的な機構で進行することが示唆された。これまで、炭素架橋トリインのHDDA反応は、ジラジカル経由で進行することが報告されており、炭素とケイ素の違いにより反応機構が異なることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
架橋部を硫黄からケイ素原子に替えると反応経路が代わり、これまでに報告例がなかった連続的HDDA-TDDA反応を見出した。さらに得られたケイ素を含む多環式芳香族化合物が、高い1,3-ジエン活性を有し、ベンザイン、活性アルキンに加え、光増感剤を共存しなくても、酸素との間でも[4+2]付加環化反応することを見出した。 想定外の新規な反応を見出すとともに、ヘテロ原子による反応性の違いについて、計算化学により明かにすることができたことから、「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は炭素に加え、他のヘテロ原子による影響を、事前に計算化学により反応経路を予測した上で、実際に反応を検討する。また合成的には、テトライン基質を単純化し、ヘテロ原子と2つのオルトフェニレンにより架橋された1,8-ジインを用いることで、分子内TDDA反応を進行させ、中心に七員環骨格を有する新規なトリベンゾヘテロピンの合成、特に金属触媒を用いたエナンチオ選択的合成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の物品で、キャンペーンによる値引き商品であることを考慮せずに計上したため、若干の繰越金が発生しました。次年度、消耗品の一部として使用いたします。
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