研究課題/領域番号 |
19K05486
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研究機関 | 女子栄養大学 |
研究代表者 |
赤井 昭二 女子栄養大学, 栄養学部, 准教授 (00322537)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | パンクラチスタチン / ニトロアルドール反応 / Henry反応 / アナログ / 抗腫瘍活性 |
研究実績の概要 |
昨年に引き続き、研究代表者が独自に開発したPST合成法を基軸に、A環アナログと2位ヒドロキシ基アナログの合成を継続した。 [2位ヒドロキシ基アナログ] 昨年度、予備的に合成を終えた2-エピPSTについて追試実験を行い、物性データの補完とともに生物活性の予備試験を行える試料を得た。また、デオキシ化反応にバートン・マッコンビー反応を用い、2-デオキシPSTの合成を達成し、物性データの収集に努めた。また、2-フッ素体を合成すべく2-エピPSTと同様の工程によりフッ素原子への置換反応を種々試みたが、反応が進行する系ではE2脱離が優先し、オレフィン体が異性体混合物で回収されるのみで、この経路での合成は困難と判断した。計画ルートを変更し、初期の工程にヒドロキシ基をフッ素原子へと置換してHenry反応でC環を導入する経路で検討を進めている。 一方、得られた試料で2-エピPSTの細胞毒性試験を予備的に行ったところ、PSTに比べ約1/10に低下した。この結果から、2位水酸基が水素結合などの相互作用により細胞毒性の発現に関与していると示唆される。したがって電子密度の高いヒドロキシ基アナログあるいは反応性の置換基により不可逆的な結合を導入できれば、より高活性の誘導体となり得るものと推測できた。 [A環縮小・拡大アナログ] 昨年度、A環が縮小された5-6-6員環誘導体を得ることには成功しており、収率と立体選択性について検討を進めた。PSTの合成と同様にグルコフラノース誘導体から保護基の脱保護とC1-C2の炭素-炭素結合の酸化開裂を効率よく進行させることはできず、一端6員環A環構築を経由する方が、円滑に開裂反応は進行することが明らかとなった。今後は、最終生成物を得るための試料の合成を進め、生成物の選択性についても検討を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
初年度は、所属研究機関を異動にともない研究環境の整備に時間を要し、年度末には新型コロナ感染症の流行で緊急事態宣言の発出、大学への入構制限のため実験禁止となり研究時間を確保できなかった。二年度(R2)も、前期中は入構制限が継続されオンライン授業の対応と実質的に研究の自粛を求められ研究時間の確保は思うようにならない状況であった。 緊急事態宣言が解除されたわずかな期間に実験を再開し、その後は、隙間時間をつなぎ合わせて実験を進め、2位ヒドロキシ基アナログのうち、2-エピ-と2-デオキシPSTの2つの合成を終え、予備的ではあるが2-エピPSTについては細胞毒性試験の結果を得ることができている。 A環の縮小・拡大アナログについての検討が遅れており、この部分が計画うちマイナス30%とみなした。現在、精力的に合成に取り組んでいる2-フッ素PSTは、計画の工程から変更したが、基本的には代表者独自工程で進めている。 成果発表は、予定していたシンポジウムも中止のため、旅費等の執行実績はない。計画全体が遅れており発表論文とするためのデータを、現在、精力的に収集している。 このような状況を総合的に判断し、およそ全体計画の65~70%程度の進捗状況と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
未だ新型コロナ感染症の終息が見通せないが、大学事務局とも連携して実験時間を確保し、これまでの研究の遅れを取り戻すように、以下のように計画した。 [1位/2位ヒドロキシ基アナログ] 2-フッ素PSTの合成を完了させ、2-デオキシPSTと共に抗腫瘍活性試験を行う。また、2-エピPSTの細胞毒性試験の結果から、高活性が期待できるシクロプロピル基とオキセタニル基を導入した1位/2位アナログを早急に合成する。これらのアナログは、代表者が報告している既存のルートの終盤の数工程の改変だけで実施できるため実施は問題なく可能である。最終的に、合計4化合物以上の細胞毒性試験を行い、総合的な評価を専門学術誌へ投稿できるようにする。 [A環縮小・拡大アナログ] 反応条件を概ね固定できたことから、数グラム規模で実験を繰り返しA環の縮小した5-6-6員環骨格を合成し進めて行く。一方、拡大環7-6-6員環骨格の検討を行う。1C導入の条件については、従来の無機塩基以外にも有機塩基なども検討して検討を進めて行く。A環縮小あるいは拡大の、いずれか一方の誘導体合成を達成できるよう鋭意実験に取り組む。 新型コロナ感染症の終息が見通せないことから、次年度は、大学とも連携しながら実験時間を確保して課題に取り組んで成果を上げたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の流行拡大に伴う緊急事態宣言により大学内での活動が制限され、約半年間、研究活動は自粛要請された。そのため、研究時間が大幅に減少し試薬や消耗品の購入がなくなり執行額が減少した。また、予定したシンポジウムや年会も中止または延期、あるいはオンライン開催となり、旅費の支出もゼロとなった。研究の進捗が遅れたため、論文作成に必要なデータの収集が終わらず、英文校閲など成果発表のための謝金の支出もゼロとなり、予算の次年度の使用が生じた。 新型コロナ感染症のワクチンの接種が開始されたため、次年度の7月ごろには新規感染者も減少し活動の制限も解除されるものと思われることから、研究計画最終年度に当たって遅れを挽回すべく精力的に実験を進めて行く。研究協力者1名も実験に参加しており、その分の試薬や溶剤、消耗品費、シンポジウムの旅費として使用を計画している。
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