研究課題/領域番号 |
19K05490
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小室 貴士 東北大学, 理学研究科, 助教 (20396419)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 金属錯体 / シリル配位子 / 支持配位子 / 1,8-ナフチリジン / N-複素環式カルベン / 金属-配位子協働作用 / 触媒 / 水素化 |
研究実績の概要 |
(1) シリル配位部位(ケイ素で金属に配位)を1,8-ナフチリジンの2位にメチレン鎖で連結した新規配位子LがSiN型で二座配位した,ロジウムおよびイリジウム錯体(それぞれ1-Rhおよび1-Ir)を合成した.当初の予想に反し,ナフチリジン骨格の二つの窒素が各々別の金属に結合した二核錯体は生成せず,金属とLが1 : 1で結合したキレート錯体が選択的に得られた.錯体1-Rhと1-Irは,シリル配位部位のトランス位の金属上に空配位座を有し,その近傍にルイス塩基となる非配位のナフチリジン窒素が存在するため,金属-配位子協働作用に基づく分子の活性化ができると期待される.実際,ロジウム錯体1-RhにボランBH3を反応させたところ,ナフチリジン窒素がBH3のホウ素に結合するとともに,二つのB-H結合が金属に配位した錯体が得られ,金属と配位子の両方が反応に関与することが示された.次に,イリジウム錯体1-Irの反応性および触媒作用を調べたところ,1-Irが常温かつ1気圧の水素雰囲気という温和な条件下でシクロアルケンを水素化する高活性な触媒として働くことを見出した.本触媒反応の円滑な進行に金属-配位子協働作用が寄与していると考えられ,この仮説を検証する実験を現在行なっている. (2) 共に電子供与性の大きなシリル配位部位とN-複素環式カルベン(NHC)とを組み合わせたキレート配位子の前駆体として,(ヒドロシリル)メチル基と嵩高いアリール基を窒素上に持つNHC 2を合成・単離した.2はロジウム(I)錯体前駆体と反応し,シリル-NHCキレート錯体が生成することがスペクトル解析によりわかった.今後2を用いて様々な遷移金属の錯体へと誘導する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に述べたように,本年度の研究により,新規のシリルキレート配位子の開発と錯体への誘導に関する成果が得られた.さらに,シリル-1,8-ナフチリジンキレート配位子を持つ錯体1-Rhおよび1-Irの反応性を明らかにし,金属-配位子協働作用を活用して基質分子を変換する,新たな手法の着想に至った.当初の目的錯体である,“シリル-NHCキレート錯体”,および“シリル-1,8-ナフチリジン配位子により二つの金属が保持された錯体”の合成については,引き続き検討する必要があるものの,今年度得られた錯体1-Rhおよび1-Irを触媒としたC-H官能基化反応の開発を,次年度以降に着手できる状況にある.したがって,現在のところ本研究はおおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,シリル多座配位子を持つ錯体の合成を継続して行なうだけでなく,それらの錯体を触媒としたC-H官能基化反応の開発を目指す.具体的には,以下の(1)および(2)を実施する. (1) 今年度の研究結果を受けて当初の計画を一部変更し,合成したシリル-1,8-ナフチリジンキレート錯体1-Rhおよび1-Irの金属-配位子協働作用をC-H結合の活性化に利用することに着目し,触媒反応の開発を行なう.すなわち,芳香族および脂肪族炭化水素の不活性なC-Hを変換(シリル化やボリル化)する反応を,触媒量の1-Rhまたは1-Ir存在下で行ない,その反応条件や生成物の収率・選択性を明らかにする.併せて,当初目的とした二核構造を持つ錯体を合成するため,二つの(ヒドロシリル)メチル基を2,7位に導入した1,8-ナフチリジンを配位子前駆体として用い,金属錯体前駆体との反応を検討する. (2) シリル-NHCキレート配位子を持つ錯体に関する研究を発展させるため,今年度開発した配位子前駆体((ヒドロシリル)メチル基を持つNHC 2)を種々の遷移金属錯体前駆体と反応させ,得られるキレート錯体を単離してその構造を明らかにする.次いで,合成した錯体を触媒としたC-H官能基化反応を開発し,その触媒性能を従来の関連錯体と比較することで,シリル-NHCキレート錯体の特長を見出す.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度は,所属研究室に既存の実験器具(真空ポンプ,ガラス器具など)を用いることで,研究に使用する物品費を節約し,当初の使用予定額よりも実支出額を低減できた.また,2020年3月に参加を予定していた国内学会が中止となったため,その旅費の支出が無くなった.以上の理由により,これらの余剰経費を次年度に繰越して,後述の使用計画に示した支出のために補填することとした. (使用計画)次年度の研究を支障無く行なうため,追加の実験器具および消耗品の購入に経費(物品費)を使用する予定である.購入物品の具体例として,合成実験に用いるガラス器具類,触媒反応を追跡するために用いるNMRスペクトル測定用の試料管および重水素化溶媒などが挙げられる.また,研究代表者や研究協力者の国際学会および国内学会での研究成果発表や情報収集のため,旅費の使用を予定している.さらに,測定機器類の維持管理や依頼分析のための“その他の経費”として,本年度の実績を考慮すると,交付申請書記載の予定額を超える支出が見込まれる.以上の使用計画に基づき,次年度必要な研究経費の不足分に本年度からの繰越額を充てる予定である.
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