研究実績の概要 |
(1) シリル配位部位とN-複素環式カルベン(NHC)とを組み合わせたSi,C型のキレート配位子をもつ,鉄およびルテニウム錯体(前年度に合成)が,ニトリルの強固なC≡N三重結合を二重ヒドロホウ素化する反応(生成物:ビス(ボリル)アミン)の触媒となることを見出した.本反応は,中圧水銀灯を用いた光照射条件下で進行し,鉄錯体の触媒活性のほうが高い.これは,鉄錯体のほうがその吸収帯が長波長側にシフトしており,光吸収の効率が向上し,より短時間で多くの触媒活性種が反応系中で生じることに起因している(紫外可視吸収スペクトルの測定結果に基づく).今回の結果を足掛かりとして,鉄に代表される資源量豊富な3d遷移金属のシリル-NHCキレート錯体触媒を開発する研究へと今後展開する予定である.豊富元素を用いた触媒の開発は,持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献するため,その意義が大きい. (2) キサンテン骨格で連結されたビス(シリル)キレート配位子をもつイリジウム錯体が,トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)のC-H重水素化(新規反応)の触媒として働くことを明らかにした.この反応では,重ベンゼンを重水素源として,PCy3の不活性なC(sp3)-H結合が位置選択的に重水素化される.反応中間体となる化学種の観測結果に基づき,触媒の金属上で,重ベンゼンの分子間C-D結合活性化,PCy3の分子内C-H結合活性化,および配位力の強いPCy3の置換を順に起こす機構を提案した.これらの円滑な進行に,シリル配位子の特長(σ供与性とトランス影響が共に大きい)が寄与していることが示唆される.得られた成果を論文としてまとめ,国際学術誌に報告した.今後,この反応を応用し,従来困難であったトリアルキルホスフィンの触媒的なC-H官能基化の開発へと発展できると期待される.
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