研究課題/領域番号 |
19K05493
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
河野 慎一郎 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (10508584)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 液晶 / 大環状化合物 / ナノ空間 / イオン伝導 |
研究実績の概要 |
本研究では、分子構造を厳密に定義できる大環状化合物からなるカラムナー液晶の内部にイオンなどのキャリアを取り込み、サイズ選択的なイオン伝導や電子輸送能を実現するナノチャネル構造の機能化を目指している。さらに、そのナノチャネル構造を鋳型としたチャネル内部での物質合成を行うことで、電気伝導を行うデバイスや高密度な不均一触媒を実現するナノ細線の作成を目的とする。以下に、本研究計画上のこれまでに得られた研究成果を示す。 1.ヒドロキシピリドン型配位子とCu2+イオンを利用した大環状金属錯体の合成とそのカラムナー液晶性の評価 ヒドロキシピリドン型配位子はCu2+イオンを高い結合定数で2:1錯体を形成することが知られている。そこで本研究では、角度構造を予備的なモデル計算より設計したヒドロキシピリドンを二つ有する共役性配位子を合成し、Cu2+イオンと溶液中で混合することで、配位子とCu2+イオンが3:3で大環状金属錯体を得た。大環状化合物を形成するサルフェン部位をモデル化合物としてリチウムイオンとの複合化を行い、単結晶構造を得ることに成功した。また、この大環状金属錯体は、適切な側鎖を導入することで、ヘキサゴナルカラムナー状に集積した分子集合体を構築することが明らかとなった(Chem. Asian J. 14, 4415, 2019)。 2. 液晶性大環状化合物の中のリチウムイオン結合部位のモデル分子構造の原子レベルの構造解明 本研究目的のために、サルフェン骨格をもつカラムナー液晶性大環状化合物とイオンの結合様式に関する分子レベルの知見は重要である。大環状化合物を形成するサルフェン部位をモデル化合物としてリチウムイオンとの複合化を行い、単結晶構造を得ることに成功した。この構造解析からリチウムイオンとサルフェンの原子レベルでの分子構造が明らかにされた。本研究成果は学術論文として投稿し査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.カラムナー液晶性大環状化合物と有機カチオンの複合化と液晶性の評価 カルバゾールとサルフェンからなる液晶性大環状化合物に対して、有機塩基となる四級アンモニウムイオンを複合化した複合体がカラムナー液晶性を発現することを見出した(論文投稿準備中)。 2.新規なpi共役構造をもつテトラ(N-カルバゾリル)ポルフィリンの開発 新しいポルフィリンとその金属錯体は、広いpi平面に基づく特徴的な電子構造を持ち、メソ位の置換基や中心金属により光学特性、酸化還元特性、反応特性を調節することができる。これらをビルディングブロックとした新しい物質輸送材料の開発も検討している。本研究では、全てのメソ位にカルバゾール誘導体の9位窒素原子を直接結合した新規ポルフィリンとその金属錯体を合成し、単結晶構造解析とUV-vis吸収スペクトル測定、TD-DFT計算、サイクリックボルタンメトリーによる電子構造の特性評価を行った。X線結晶構造解析から、カルバゾール部位はポルフィリン環に対してほぼ直交した分子構造をもつことが明らかとなった。また、この化合物をプロトン化した誘導体は、ピロールの窒素原子がジプロトン化され、ポルフィリン環が鞍型に歪む構造が明らかとなった。酸を添加したUV-vis 吸収スペクトル測定では、プロトン化によって841 nmの近赤外領域に新たな極大吸収が現れた。この極大吸収はカルバゾールの軌道からポルフィリンの軌道への遷移に帰属された。サイクリックボルタンメトリーでも第一還元電位が正側に0.76 Vシフトしており、この大幅なレッドシフトはLUMOの顕著な安定化によるものであると示唆された。LUMOの安定化の理由として、プロトン化により分子の対称性が上がったことと、ポルフィリンがカチオン性になったため電子を受容しやすくなったためと考えられる(Chem. Commun. 55, 2992, 2019)。
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今後の研究の推進方策 |
カチオンを内包したカラムナー液晶の液晶性を評価するために、リチウムイオンやアンモニウムイオンと複合化した試料を調製した。これらの複合体について、示差走査熱量測定(DSC)、偏光顕微鏡(POM)観察、斜入射X線回折(GIXRD)を用いて液晶性の評価を行ない、いずれのカチオン性ゲスト分子と複合体においても100 °C以下で安定なレクタンギュラーカラムナー液晶相を発現した。さらに、複合化した全ての試料について、二枚のガラス基板に挟み、せん断力を加え液晶カラムを流動配向した後、POM観察及びGIXRDにより液晶状態のカラムナー組織の配向制御性を評価し、せん断を与えた方向に沿って高度は配向した試料の調製に成功した。現在、カルバゾールとサルフェンからなるカラムナー液晶性大環状化合物の中に、リチウムイオンや、カチオン性有機分子であるイミダゾリウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオンをカラムナー液晶性のマクロサイクル中に導入し、それらのイオン伝導度について交流インピーダンス法を用いて測定している。櫛形金電極上で、サンプルを等方性液体になるまで昇温して電極に満たし、液晶性のテクスチャーが現れるまで降温した。その降温過程において、交流インピーダンス測定を行った。110 °Cにおけるインピーダンス測定の結果をインピーダンスを複素平面プロットすることで、Cole-Coleプロットが得られた。これにより、各種カチオンを導入した試料について、交流インピーダンス測定を行い、抵抗値とイオン伝導度を算出した。現在イオン種の移動度の向上を目指すための最適条件を検討している。今後の研究計画としては、これらのイオン伝導度の向上を目指すために、モノドメイン化した、より長距離的なナノチャネル構造の形成によって、イオン伝導度が向上すると考えられる。今後は、これらの方針で高効率なイオン伝導度物質の開発を検討する。
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