研究実績の概要 |
本研究では、分子構造を厳密に定義できる大環状化合物からなるカラムナー液晶の内部にイオンなどのキャリアを取り込み、サイズ選択的なイオン伝導や電子輸送能を実現するナノチャネル構造の機能化を目指している。さらに、そのナノチャネル構造を鋳型としたチャネル内部での物質合成を行うことで、電気伝導を行うデバイスや高密度な不均一触媒を実現するナノ細線の作成を目的とする。以下に、本研究計画上のこれまでに得られた研究成果を示す。 1.液晶性大環状化合物の部分構造であるサルフェンとリチウムイオンの結合構造およびその動的挙動の解明 本研究目的のために、サルフェン骨格をもつカラムナー液晶性大環状化合物とイオンの結合様式に関する分子レベルの知見は重要である。大環状化合物を構成するサルフェン部位をモデル化合物としてリチウムイオンとの複合化を行い、単結晶構造を得ることに成功した。特筆すべきことは、リチウムイオンを配位したサルフェンが二量化し、酸素原子とリチウムイオンによりキュバン型の構造を形成していた(Inorg. Chim. Acta, 512, 2019)。リチウムイオンとサルフェン部位の結合距離やその幾何構造を得られたことは重要である。また一方で、リチウムとサルフェン部位の溶液中の動的な挙動を温度可変のNMR測定から測定したところ、キラルな分子配向をもつリチウム-サルフェン錯体の二量体が動的にその鏡像異性体間で相互変換していることも明らかとなり、リチウムイオン伝導に関する有意義な知見が得られた。 2. カラムナー液晶性大環状化合物への四級アンモニウムイオンの取り込み評価 大環状化合物は、サルフェン部位の水酸基に対して四級アンモニウムヒドロキシドを作用させることによりイオン相互作用を介してカチオン性ゲストを導入できる。四級アンモニウムを導入したカラムナー液晶相を詳細に評価した(論文投稿準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.カラムナー液晶性大環状化合物と有機カチオンの複合化と液晶性の評価 カルバゾールとサルフェンからなる液晶性大環状化合物に対して、有機塩基となる四級アンモニウムイオン(トリメチルフェニルアンモニウムイオンやテトラエチルアンモニウムイオン)と静電相互作用を介して複合させた。興味深いことに、X線回折実験および固体NMR分光法を用いた構造評価により,カチオン性イオンを大環状化合物の中に取り込んだホスト-ゲスト複合体が室温を含めた広い温度領域でカラムナー液晶相を発現することを見出した(論文投稿中)。van der Waals半径を考慮したモデルを用いた考察からも、上記四級アンモニウムイオンも大環状化合物に導入できるサイズであり、それらを取り込むことができる新しいホスト型液晶として機能することが明らかとなった。これらの新しいホスト型液晶に関しては、日本液晶学会で論文賞Aの受賞を受けた。また、査読付き論文として国内雑誌 (高分子, 57, 390, (2020), 特集 空間を操る)や、液晶, 26, 40, (2021),論文賞A 解説)を発表している。 2.新規な共役構造をもつテトラ(N-カルバゾリル)ポルフィリンの開発 ポルフィリンとその金属錯体は、その広いpai平面に基づく特徴的な電子構造により、新しい物質輸送材料の開発ができる。本研究では、ポルフィリンの全てのメソ位にカルバゾール誘導体の9位窒素原子を直接結合した新規ポルフィリンとその金属錯体を独自に開発した(Chem. Commun. 55, 2992, 2019)。本研究ではこれらを原料として、さらに新たなpai共役構造をもつ新規ポルフィリンの開発に成功している。これらの新奇なpai共役構造をもつポルフィリン誘導体を用いて革新的な電子・正孔輸送材料としての機能評価を目指している。
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