研究課題/領域番号 |
19K05496
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉成 信人 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (10583338)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 金属クラスター集積体 / 希土類イオン / キュバンクラスター / 単結晶変換 / 動的コンビナトリアル化学 |
研究実績の概要 |
本年度は、多価イオン伝導体の開発を企図して、金属クラスター集積体への三価金属イオンの拡散挙動について調査した。L-システインをもつアニオン性の金属クラスターの集積体結晶を希土類酢酸塩(Ln(CH3COO)3)の溶液に浸す実験を実施した。その結果、比較的イオン半径が小さい希土類については、4個の希土類イオンが結晶中に導入されることを見出した。単結晶X線分析などから、得られた結晶は、キュバン構造を有する希土類水酸化物クラスター([Ln4(OH)4(CH3COO)3(H2O)9]5+)が形成されていることが判明した。得られた化合物は特徴的な磁気的性質と不均一触媒活性を示すことが確認された。この反応で形成されるキュバンクラスターのサイズは金属クラスター集積体の「窓」のサイズよりも大きい。このため、いわゆる「Ship-in-bottol」機構でキュバンクラスターが形成されていると考えられる。すなわち、結晶内錯形成反応であり、錯体化学の観点からも興味深い。 また、前年度に見出した複数の配位子を含む動的な金属多核錯体の平衡混合物について、より複雑性の高いキラル混合系を調査した。この系では、合計10種の異性体が動的混合物を形成していることが質量分析等から確認された。一方、結晶化を行うと、単一の異性体が平行移動を伴いながら単離されることがわかった。さらに興味深いことに、結晶化の際の溶媒を変更することにより、単離される異性体をスイッチすることにも成功した。これは、近年触媒探索で興味がもたれる動的コンビナトリアル化学を錯体化学へ応用した好例であり、機能性固体材料の新しい合成法としての発展が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多価イオンが金属クラスター集積体内部を拡散することを示す証拠が得られており、順調に研究が進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は金属クラスター集積体の内部で希土類イオンが集積するという予想外の成果を得たが、この挙動をバルク伝導につなげるためにはクーロン束縛を弱めるためのさらなる工夫が必要である。二価イオンにターゲットを移すほか、運動イオンにアニオンを結合させる戦略を試みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症蔓延より大学が閉鎖される時期があり、消耗品の使用量が少なくなった。国際会議の中止の影響で当初よりも旅費支出も少なくなった。本年度実施予定であった実験の一部を次年度に実施するため、物品費として主に使用予定である。
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