研究課題/領域番号 |
19K05499
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
黒田 泰重 岡山大学, 自然科学研究科, 特任教授 (40116455)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 遠赤外線吸収スペクトル測定 / 放射光 / イオン交換ゼオライト / 低圧条件下での二酸化炭素吸着 / 室温での二酸化炭素吸着 / 選択的二酸化炭素吸着 / 特異な吸着モデル構築 / DFT計算 |
研究実績の概要 |
産業革命以来,人類が使用するエネルギー量は飛躍的に増加し,そのエネルギーの供給源として主に化石燃料が使用されてきた.その結果増加した大気中のCO2が地球規模での気候変動の一因であるとされ,大気中のCO2量の削減は人類にとって喫緊の課題となっている.今日,CO2に対して高い親和性を示す吸着・除去材,貯蔵材,エネルギー消費量減少のための高いCO2吸着能を利用した真空断熱材や分離・貯蔵したCO2の活性化を目指した機能材料の開発が求められている.現状では,精錬過程や工場の排ガス中に多量に含まれる高い圧力のCO2は,種々の塩基性化合物との高温での反応を利用して,炭酸塩としての回収,アミン類の水溶液(酸と塩基)との直接反応を利用した回収法が主流である.しかし,中和反応の際に発生する熱の処理や、強アルカリ溶液の取り扱いも困難であるなどの問題点がある.また,低い圧力のCO2に対しては、MOF(集積型金属錯体)などの利用が検討されている.社会生活一般を考えた場合,“Direct Air Capture (DAC)”法という大気中からのCO2の除去は、ガスの精製や断熱性能の向上やCO2を有益な物質に変化させるための炭素原料とするなどという視点から注目され、MOFなどが候補の物質として,近年,盛んに研究されている.しかし,MOF材料の場合は試料調製が高額であるなどの問題が指摘され,また,室温・低圧[大気中のCO2分圧400 ppm(約0.3 Torr)から人体に害があるとされる5000 ppm (3.9 Torr)]領域でのCO2吸着という点では性能が良くない.我々は,ゼオライト試料が低分圧領域(~5000 ppmレベル)のCO2を室温で吸着し,その後の分離・再生が可能となることを見出したので,このような特異吸着が生じる要因解明のために,遠赤外線領域のスペクトル測定の有用性を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実験室系での遠赤外線領域の赤外線吸収スペクトル測定をまず大気中で行い,A型ゼオライト系(Si/Al = 1)で測定を試みた.その結果,有益な情報を得られることを確認した.その後,実験室系の装置を用い,高温真空処理後および連続してin situ条件下でCO2を吸着させた系について測定実験を行った.この際,真空・高温熱処理条件下でしかも遠赤外線領域の赤外線吸収スペクトルを行うための窓板材(ポリエチレン)が高温で溶けないようなセルをデザインした.この際,赤外透過が可能な自立型の測定試料で測定可能な系を構築した.これらのデータに基づいて,遠赤外領域の測定でCO2特異吸着現象の解明とモデル構築を行うにあたり,十分な情報が得られることを確認した.これらの実験事実をベースとして,より高感度に測定が可能である放射光での測定を検討し,複数回の課題申請を行ってきた.また,同時に,高温熱処理真空条件下で,SPring-8での遠赤外線領域の吸収スペクトル測定のためのセルを開発した.さらに,少量の試料で測定ができるようにサンプルの担持法を改良することによって,吸収スペクトルが飽和せず,且つ,十分な吸収強度が得られる条件を確立した.その後,実際の系で測定を行い,重要な情報を得られることを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
提案モデルのさらなる確証を得るために,CO2と等電子構造を有し,しかも構造が類似するN2O分子を用いた吸着現象の解析(吸着量,吸着熱,遠赤外線吸収スペクトル測定など)を行う予定である.さらに,CO2の吸着量を増加させる試みも行う.具体的にはストロンチウムイオン交換を行ったA型ゼオライト試料(Si/Al = 1)について,一連の同様の実験を行う予定である.また,遠赤外線領域の吸収スペクトル測定法の有用性や検出感度に関する情報を得るために,Si/Al比の大きな値の試料(Alの量が少ないので,イオン交換量が減少する.そのため,高感度の実験が必要となる.)を用いた実験を行う.具体的にはMFI型試料(Si/Al = 12ぐらい)の試料を用いる.その際,我々が既に興味深い現象を見出している室温でのXe吸着現象に対して本法を適用して,Xeとゼオライトにイオン交換された遷移金属イオンとの相互作用についての知見を得る実験を計画中(SPring-8での実験を行うために申請した課題は既に採択済み)である.この実験により,金属イオン交換MFI型ゼオライト中の交換金属イオンとXeとの結合状態に関する知見を得る.これらの実験をとおして,総合的に,遠赤外線領域のスペクトル測定の有用性を提案したい.
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