研究課題/領域番号 |
19K05501
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
福岡 宏 広島大学, 工学研究科, 助教 (00284175)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Zintl相 / 超伝導 / 共有結合性金属間化合物 / 高圧合成 |
研究実績の概要 |
これまで発見された中で最小のケージを持つシリコンクラスレートMgGe5について、物性測定に使用可能な単相試料の合成を、川井式6-8型マルチアンビルプレスを用いた高温高圧合成によって試みた。現在、単結晶資料ではないが、純良な多結晶試料を得ることができ、2 K から室温までの電気伝導度測定を行った。その結果、2 Kから250 Kまでは、温度の上昇とともに電気抵抗率が増加するという金属的な振舞いが見られ、250 Kから室温までは、ほとんど電気抵抗率が変化しないという挙動が観測された。電気抵抗率自体も、同じく金属的な電気伝導度を示すバリウムのシリコンクラスレートと比べて絶対値が大きいことが分かった。今後単結晶試料の作成を試みるとともに、ゼーベック係数や比熱の測定などを行い、本化合物の伝導機構の解明を進める予定である。
次に、初めてのカーボン系クラスレートを合成を目指して、本年度はマグネシウム、バリウムと炭素との高温高圧反応について検討を行った。出発化合物に、無定形炭素、グラファイト、フラーレンといった炭素単体や、メラミン等の多重結合を有する炭素材料を用い、様々な条件での合成を行った。その結果、まだ新化合物の同定には至っていないが、生成物の粉末XRD測定から、データベースにある既存のカーボン系化合物には比定できない結晶性物質が生成したことがわかり、現在その化合物の同定を目指して、組成分析や合成条件の検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初期の目的に沿って、これまで発見された中で最小のケージを持つシリコンクラスレートMgGe5について、物性測定に使用可能な試料を得ることができ、2 Kから300 Kまでの電気伝導度測定を実施することができた。データについては、引き続き、より純良な多結晶試料や、できれば単結晶を作成して精度の高い測定を行う必要があると考えているが、測定結果は単純な金属とは異なる興味深い性質を示しており、今後ゼーベック係数の測定によるキャリアーの確認や、バンド計算との比較を行うことで、MgGe5の電気物性についての理解を進めることができると考えている。
またカーボン系クラスレートの探索実験では、新相ではないかと思われるいくつかの化合物の生成を確認することができた。現在、更に様々な条件下での物質合成や、組成分析等によって、それらの相の同定に取り組んでいる。まだ新化合物の同定には至っていないが、研究初年度でもあり、おおむね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度は、おおむね思い描いていた計画に沿って研究を実施できたと考えている。今後、MgGe5については、1. より純良な多結晶試料の作成を行うことと、できれば測定可能な程度の大きさを持つ単結晶試料の作成を試みる。2. ゼーベック係数や比熱の測定などを行い、キャリアーの確定とキャリアー密度等を調べる。3. バンド計算を行って、計算科学から本化合物の伝導機構の解明を進める。という方法により、研究を進めて行く計画である。
カーボン系クラスレートの研究に関しては、初年度で、足掛かりとなるいくつかの未同定相を得ることができた。今後、1. 様々な合成条件下で高温高圧合成を行うことで、それらの相が主生成物として得られる合成条件を探索する。2. 電子線プローブマイクロ分析や、ICP分析等による組成分析を行って、正確な組成分析を行う。3. より反応性の高い炭素原料の使用を検討する。といった方法によって、研究を進めて行く計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大によって、多くの学会が中止となったため、旅費が多く余ったことによる。次年度以降は、通常の社会状況に戻ることを期待したいが、今年度の旅費に充てていた予算を、適宜物品費等に使用するなどして、科研費の適切な使用を行いたい。
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