研究課題/領域番号 |
19K05501
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
福岡 宏 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 助教 (00284175)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 共有結合性金属間化合物 / 高圧合成 / Zintl相 |
研究実績の概要 |
16族元素のうち、カルコゲンと呼ばれる酸素以外の元素は、共有結合によってネットワーク構造を形成することができる。特にイオウはポリスルフィドイオンをつくり、いわゆる硫化物イオンS2-の化合物とは異なる特異な結晶構造を形成する。 我々は、S-S間に共有結合を有する新構造の化合物CrS3の高圧合成と構造解析に成功し、その成果を論文として発表した。(H. Fukuoka et al. Inorg. Chem. (2020) 59, 13320-13325.)CrS3は10 GPa以上の高圧条件下、700℃から1100℃の温度領域で生成し、常温常圧下で安定に存在する。本化合物中の硫黄は全てジスルフィドイオン(S-S2-)を形成し、クロムは全て三価で、CrS6八面体を形成する。 また本化合物は、マーカサイト(FeS2)に類似した構造を持つが、その遷移金属サイトの3つに1つが欠損した新構造を有する。構造中の部分構造として、二つのCrS6八面体が稜を共有して結合したCr2S10ダイマーがあり、このダイマーが頂点を共有して結合することによって三次元構造を形成している。CrS3は強い磁性を持つことを示唆する実験結果も得られており、次年度以降、その磁気構造の解明を試みる計画である。 シリコンクラスレート MgSi5について、昨年度に引き続き、純良な試料の高温高圧合成を試み、多結晶体を用いた電気伝導度測定を行った。 更に、昨年度に引き続きマグネシウム、バリウムをカウンターカチオンに用いたカーボンクラスレートの合成を試みた。その結果、2種類の炭素源を出発化合物に用いる高圧高温反応によって、データベースにない回折ピークを与える生成物を複数得ることができた。現在、生成物の同定作業を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新化合物であるCrS3について、その生成条件を詳細に決めることができ、単結晶構造解析によって決定した結晶構造とともに、論文としてまとめることができた。さらに、純良な試料の合成方法も見出すことができ、順調に本化合物の研究を進めることができている。更に本化合物はその磁性に興味深い点が見いだされており、現在その磁気構造を解明するために、高純度試料の合成を進めている。シリコンクラスレートMgSi5については、2 Kから300 Kにおける電気伝導度の測定を多結晶試料を用いて複数回行い、その電気的性質を決定することができた。カーボンクラスレートの合成については、2種類の炭素源を出発混合物に使用することで、複数の未知と思われる化合物を得ているが、まだ同定に至っていない。以上の状況を勘案して標記の通りの評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
CrS3については、その磁気構造を決定するため、今年度中性子線回折測定による磁気構造の解析を予定している。中性子線回折にはグラム単位の試料が必要であるが、1回の高温高圧合成によって得ることのできる試料量は50mg程度であるため、20回ほどの合成実験を行い、測定に用いる試料を確保したうえで、磁気構造の解析に進む計画である。磁気構造が首尾よく決定できた場合、第一原理計算によってバンド構造を計算しその電子構造についても検討する予定である。 また、今年度までに得られた炭素系未知試料については、引き続き構造解析可能なサイズの単結晶の育成と、生成した化合物の同定を進める予定である。また、マグネシウム、バリウム以外の、電気的陽性元素との組み合わせによる高温高圧合成も試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は4万円程度であり、概ね使用計画通り支出を行うことができた。未使用分は、次年度に高圧合成に使用する消耗品費として使用する計画である。
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