研究課題
本研究の目的である水素の電子を利用した炭素ー炭素結合生成反応において、(1)ハロゲン化物とCO2とのカップリング反応、(2)C(sp2)-C(sp2)間でのクロスカップリング反応、(3)C(sp3)-C(sp3)間でのカップリング反応、(4)シクロプロパン化反応の進行が確認できた。(1):従来の酢酸合成法であるモンサント法で利用されるCOの代わりに、二酸化炭素と水素の電子を利用することで、酢酸合成に成功した(論文受理済み)。中間体の構造をX線結晶構造解析により明らかにし、それに基づき反応メカニズムを提案した。(2):これまで、C-H結合のアリール化によってビアリールを合成する際には、高温条件もしくは犠牲試薬を使用する必要があった。本研究では、新規の電子貯蔵触媒により、水素の電子でハロゲン化アリールを還元的に活性化することで、芳香族化合物のC-H結合を直接アリール化する反応を達成した(論文投稿準備中)。(3):還元的カップリング反応には、金属還元剤をはじめとする犠牲試薬が必要であった。本研究では、水素の電子を用いて、C(sp3)とハロゲンの結合を還元的に活性化し、有機ラジカルを生成させることで、ハロゲン化物同士をカップリング反応することに成功した(論文投稿準備中)(4):シモンズスミス反応や古川法は、シクロプロパン化合物の汎用的な合成法であるが、発火性試薬や犠牲試薬を使用する必要があった。本研究では、水素の電子を用いて、ハロゲン化アルキルとアルケンから、シクロプロパン化合物を触媒的に合成することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、水素の電子を用いて4種類の炭素ー炭素結合生成反応を構築できたことから、研究は順調に進展している。具体的には、研究実施実施計画にある4つの研究テーマのうち、3つのテーマに対応する炭素ー炭素結合生成反応を達成している。すなわち、ハロゲン化物とC=O化合物(CO2)とのカップリング反応、ハロゲン化物同士のカップリング反応、アルケンとハロゲン化物とのカップリング反応である。これらの研究成果は、一つが論文に投稿済みであり、残りのテーマに関しても論文投稿準備中である。
当研究課題では、これまで水素の電子で活性化する出発基質として、ハロゲン化物を用いている。今後は、ハロゲン化物ではなく、C-HやC-O結合を直接活性化するような触媒を設計し、それらの出発基質と種々の有機化合物とのカップリング反応を検討していく。具体的には、芳香族化合物のC-H結合の直接変換反応やエーテル結合の結合組み換え反応などを、水素の電子を利用して行なっていく予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Chemical Communucations
巻: 56 ページ: 11787-11790
10.1039/D0CC04789A
Organometallics
巻: 39 ページ: 3731-3741
10.1021/acs.organomet.0c00565