研究課題/領域番号 |
19K05504
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田原 淳士 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (50713145)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 有機金属化学 / 錯体化学 / C-H結合活性化 / 金属-配位子協同作用 / σ-CAM |
研究実績の概要 |
配向基を持たない単純アルカンやアレーンのC-H結合活性化および触媒的官能基化は次世代の触媒反応として精力的に研究されているが、達成のための明確な触媒設計指針は限られる。その一方で、一部のIr触媒系を用いて、温和な条件でのアルカン・アレーンの脱水素ホウ素化が報告されている。これは系内で発生する金属-ホウ素結合の働きによってC-H結合活性化の素反応における活性化障壁が軽減されるためと考えられている。本研究ではこの知見に基づき、活性種の構造を指向した配位子設計を着想し、基質としてではなく配位子としてホウ素骨格が導入された多座配位子を有する新規錯体を合成し、単純アルカンやアレーンの活性化および分子変換反応の達成を目的とする。 2021年度は計画書に記載のSTAGE II~IVへと展開し、研究の加速に成功した。STAGEII:配位子の合成では、無置換のビピリジン骨格の2,2'-位と種々のアミノアルコールをメチレン鎖で連結させた配位子前駆体を合成した。得られた配位子前駆体とホウ素試との反応から、NBO五員環を持つ配位子が形成されたことを11B{1H} NMR および プロトンノンデカップル 11B NMR 測定により確認した。STAGE III:錯体の合成では、合成した配位子または配位子前駆体をIr金属塩と反応させたが、複雑な混合物を与えたため、STAGE IV:触媒の系内発生による反応開発へと着手した。その結果、一部の触媒系においてはベンゼンの脱水素ホウ素化に活性を示すことを確認した。 配位子および錯体の溶解性が課題となったため、最終年度では支持配位子であるビピリジンの4,4'-位にtBuを導入した配位子合成に展開する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度は新型コロナウイルスおよび緊急事態宣言の影響で大幅な研究の遅れが発生したが、2021年度は収束・規制緩和に伴い、本来の研究活動を再開することができ、当初計画にのっとりSTAGE I~IVの研究展開を行うことができた。配位子を合成し、一部触媒系については単純炭化水素であるベンゼンの脱水素ホウ素化が達成された点で、おおむね順調といえる。これに加えて、配位子形成に伴うホウ素源によって、痕跡量ながら単純炭化水素のカップリング体をGC-MSにて観察することができた点で、当初の計画以上の成果を得ている。本成果は溶媒量の単純炭化水素由来ではなく、有機ボロン酸由来の可能性もあるため、更なる検討が必要だが、喩え後者であったとしても金属上での鍵反応過程である還元的脱離が進行していることを間接的に示しており、本触媒設計指針が妥当であることを意味する点で貴重な成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り、配位子前駆体の精製過程、および触媒反応過程において、配位子の溶解性が問題となり、反応収率が低下していることが懸念された。錯体に関しても同様である。配位子および錯体の溶解性が課題となったため、最終年度では支持配位子であるビピリジンの4,4'-位にtBuを導入するなどして、更なる反応性の向上を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会でのオンサイト発表を予定していたが、コロナの影響によりオンライン形式に変更となり、計上していた旅費の執行が発生しなかった。なお学会にはオンライン参加し口頭発表を行ったので、業務に支障はなかった。 次年度は今年度コロナの影響により滞った研究および成果発表を加速させる。
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